「ガソリン97円/リットル、軽油98円/リットル」。

 昨年末以降、都内を自動車で走っていると、こんなガソリンスタンドの看板が目に入ってくるようになった。従来、軽油はガソリンよりも1リットル当たり20円程度安いものだったが、そうした常識は現在、通用しなくなっている。軽油で走るディーゼル自動車のユーザーには頭の痛い話だ。

 状況が変化し始めたのは昨年の夏以降のこと。石油情報センターによると、ガソリンスタンドでのガソリンと軽油の価格差は、20~25円程度あったが、昨年9月以降は価格差が急速に縮小しており、年末年始の価格差は4円台。同センターの情報は平均価格であるため、スタンドによってはガソリンと軽油が同価格だったり、ガソリンのほうが安くなる状況が生まれている。

  じつはこの「軽油高・ガソリン安」という状況は世界的な傾向だ。ディーゼル自動車の比率が高い欧州では、昨年の原油高によって、さらにディーゼル自動車の人気が高まったという。同クラスのガソリン自動車と比べると2~3割程度燃費がよいためで、軽油の需要は相対的に増大した。その結果、価格が逆転する国が増加。英国の交通情報会社AAによれば、昨年12月時点で欧米各国18ヵ国のうち、実に10ヵ国で軽油のほうが高くなったという。

 ただ、日本においては、税金を考慮すれば、今の軽油価格は異常な状態ともいえる。

 ガソリン税は1リットル当たり53.8円なのに対し、軽油引取税は同32.1円。両者の価格差は21.7円ある。また国内の卸スポット市場では、税抜きで軽油が40円程度、ガソリン34円程度となっている。これを基に計算すると、軽油のほうが15円程度安く売ってもおかしくない状況は続いているのだ。

  そうならない原因は、ガソリンの価格競争の激化にある。

 「販売量の落ち込みが激しく、ガソリン価格を引き下げざるを得ない」

 多くのスタンド経営者が異口同音にこう話す。需要減退の中で価格競争に引きずりこまれており、ガソリン価格を引き下げてドライバーを呼び込もうとしている。だが競争が激しいのはガソリンだけ。じつは通常のスタンドにおいて軽油販売量はほんの数%しかない。軽油を値引いても客足が大きく増えるわけではなく、安値販売の対象外とならざるをえないのだ。

 大量の軽油を使用する物流業者は専用の給油所を使ったり、物流業者向けのフリートカードを持っているため、比較的安い価格で購入できる。つまり一般のディーゼル自動車ドライバーは、数が少ないがゆえに割を食っているのである。

 もちろんよく調べるとガソリンと軽油の価格差が10円以上あるという、コスト差に忠実な価格を守っているスタンドも存在しないわけではないが、あくまでも少数派。スタンド業界は淘汰・廃業が進む厳しい業界であり、今後もめまぐるしく状況が変わりそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 野口達也)