経済活動を分析する場合の最も基本的なデータの一つは、GDP(国内総生産)である。
中国では、経済政策の目標として「保八(実質8%成長の達成)」ということがうたわれる。農村部から都市に流入する膨大な人口に雇用機会を提供するためには、それだけの経済成長がどうしても必要だというわけだ。GDPで示された経済成長率の達成は、さまざまな国において大きな経済目標だが、中国ほど直接的な形で数値目標が設定されている国はない。
GDP成長率という指標が重要なのは、単に中国国内だけの事情ではない。日本の輸出産業は、アメリカなど先進国の需要が減退したので、今後の市場を中国をはじめとする新興国に求めようと考えている。また、今後の投資対象として、中国をはじめとする新興国が有望ということも言われている。そうした判断の基準になっているのは、中国の経済成長率の高さだ。
それほど重要な指標であれば、正確さはきわめて重要である。しかし、それにもかかわらず、中国のGDPデータに対しては、疑問が多い。
前回は、IEA(国際エネルギー機関)が中国のデータに疑問を呈し、中国当局が反論していることを述べた。疑問は、それに尽きないのである。
問題は、推計のための技術的な側面と、政治的な側面とがある。まず、推計の技術的側面を見よう。
GDPはかなり高度に加工されたデータであり、直接に観察できるものではない。その点で、貿易量や工業生産量などとは異なる。
日本やアメリカなどの先進国では、多数の統計を用いて、生産面(供給面)と需要面からの推計を行なう。さらに所得の推計も行なう。そしてこれらは、事後的な記録としては理論的には同一の値になるはずなので、さまざまな調整がなされる。
しかし、中国では、きわめてプリミティブな方法で推計が行なわれている。中国のGDP統計のシステムは、社会主義経済時代のものから大きく変わっているとは言えないようなのである。