海上自衛隊の輸送艦おおすみとLCAC
Photo:JMSDF

日本の安全保障を考える上で、「島嶼防衛」は中心的なテーマである。具体的に想定されているのは、尖閣諸島や南西諸島などへの、中国の軍事侵攻という事態だ。現在国会で審議中の安保関連法案や、近年の自衛隊の装備調達でも、これが大きく意識されている。では、政治的な議論を離れて、純粋に「軍事」という観点で見たときに、重要なのは何か。軍事評論家の岡部いさく氏に聞いた。週刊ダイヤモンドの特集「陸vs海vs空 乗りもの王者決定戦」との連動企画。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 河野拓郎、週刊ダイヤモンド 千本木啓文)

「島に来た敵を排除せよ」
そこで必要になる兵器とは?

──島嶼防衛のために、重要な装備や技術とは何でしょうか。

 まず、具体的にどういうシナリオなのかを考えなければなりません。島嶼防衛という話はよくされていますが、それがいま一つ見えてこない。日本のどこかの島に、どこかの国が上陸して占領する、それを奪い返しに行く──といった状況なのでしょうが、いきなり敵がやって来るということは考えにくい。そうなる前にもっと色々なことが起きます。

おかべ・いさく
1954年生まれ。学習院大学文学部フランス文学科卒業。航空雑誌「月刊エアワールド」編集者、艦艇雑誌「月刊シーパワー」編集者を経て、フリーの軍事評論家。有事の際はテレビの報道番組での解説などで活躍。豊富な知識に基づいた冷静な分析で定評がある。著書に『検証 日本着弾 「ミサイル防衛」とコブラボール』(扶桑社・共著)など。

 例えばロシアのクリミア侵攻がそうであったように、民兵や現地の反政府勢力を装った得体の知れない武装勢力をまず送り込み、既成事実を作った上でその支援要請を受けて本格的な軍隊を送り込んでくる、というやり方もある。

 島であれば、漁船が台風からの避難という名目で大挙押しかけて来たが、それが実は自動小銃や大砲を持った武装勢力だった、ということもあり得ます。それを警察や海上保安庁が排除しようとしたところが、向こうから“漁民を守るため”に軍隊が来て、対抗して自衛隊が出る、といったシナリオが一つ考えられます。

 ともかく、島に他国の軍隊がやって来て、それを日本が実力で排除せねばならない事態になったとしましょう。

 そうした場合に必要なのは、着上陸、つまり陸上に部隊を送り込むことです。送り込まれるのは陸上自衛隊でしょう。九州にある「西部方面普通科連隊」が、着上陸に特化した部隊としての訓練を行っています。

 その手段となるのが、ヘリコプター、陸上自衛隊に今度導入されることになった「MV-22 オスプレイ」(※1)、そして海上自衛隊の輸送艦です。「おおすみ型」(※2の輸送艦は、上陸用の舟艇や「LCAC」(※3)というホバークラフトを搭載しています。

(※1)MV-22 オスプレイ
米ベル・ヘリコプター社とボーイング・バートル社(現ボーイング・ロータークラフト・システムズ)が共同開発した航空機。エンジンとローター(プロペラ)を90度回転することで、ヘリコプターのような垂直離着陸と、飛行機並みの速度での水平飛行ができる。

(※2)おおすみ型
ヘリコプターが発着できる飛行甲板を持ち、内部に2隻のLCACを搭載する輸送艦。LCACやヘリなどを使って、輸送する兵員や戦車、車両等を海上から上陸させる能力を持つ。なお、空母に似た形だがヘリが発着できるのみでその整備能力などはないので、空母の定義には当てはまらない。海外では「揚陸艦」に分類されている。同型艦3隻がある。

(※3)LCAC
Landing Craft Air Cushionの略。米国開発の水陸両用ホバークラフト。海上自衛隊は6隻を保有する。90式・10式主力戦車なら1両、人員なら約30人を輸送できる。