「でんでん虫のお陰で、個人タクシーのイメージが悪くなった。こちとらただでさえ生活が苦しいのに、やっていられないよ」

 そう憤るのは、ある個人タクシーのドライバーだ。

 関係者が怒りをぶつけるでんでん虫とは、東京都個人タクシー協同組合(東個協)に加盟し、「かたつむり型の行灯」をつけて営業を行なうタクシーの通称である。

 会員数約1万1000人、個人タクシーの団体では日本最大規模となる東個協は、現在「犯人探し」に躍起になっている。実はこの組合、今テレビや新聞で槍玉に挙げられている「居酒屋タクシー」の温床となっているのだ。

同胞からも批難集中
居酒屋タクシー騒動の衝撃

 携帯電話1本で霞が関に馳せ参じ、職員に車内でビールや商品券などを振る舞っては「お得意様」を増やして来た居酒屋タクシー。彼らに利益供与を受けた官僚たちは、「給料を税金でもらいながら、民間からキックバックまで受けているのか」と世論の集中砲火を浴びている。政府の調査結果によると、居酒屋タクシーを利用したことがある職員は、13省庁・機関で500人にも上っていることが判明した。

 むろん、官と癒着して利益供与を行ってきたドライバーも責任重大。その9割方が個人タクシー、それもタクシーチケットの契約を通じて霞が関を大得意先としてきた東個協のドライバーと目されている。そのため、同胞の個人タクシー業者からも批難の声が相次いでいるのだ。

 しかしその一方で、業界には居酒屋タクシーに同情する声も少なくない。「タクシー業者がモラルを無視した営業を行なう背景には、止むにやまれぬ事情がある」(東個協に加盟するドライバー)と言うのだ。その背景には、過当競争による市場の地盤沈下により、タクシードライバーが生活苦に陥っているという現状がある。