「あれも大事、これも大事」と悩むのではなく、「何が本質なのか?」を考え抜く。そして、本当に大切な1%に100%集中する。シンプルに考えなければ、何も成し遂げることはできない――。LINE(株)CEO退任後、ゼロから新事業「C CHANNEL」を立ち上げた森川亮氏は、何を考え、何をしてきたのか?本連載では、待望の初著作『シンプルに考える』(ダイヤモンド社)から、森川氏の仕事術のエッセンスをご紹介します。

幸せの先に、幸せはない

 

 ハンゲーム・ジャパン株式会社に入社して4年後──。

 僕は社長を任されることになりました。当時、僕はひそかに危機感を抱いていました。というのは、入社したころと会社の状況が一変していたからです。

 僕が入社したころは約30人の赤字会社でした。だから、みんなが必死になって働いていました。そして、わずか4年で日本のオンライン・ゲーム市場でナンバーワンになったのです。

 そこで、何が起こったか?

 みんなが、幸せになってしまった。給料が増えて、結婚をして、子どもをつくり、家を買い、そして早く帰るようになった。もちろん、それはいいことです。しかし、僕は「危ない」と思いました。なぜなら、年功序列的な給与制度だったからです。

 このまま会社に残れば、エスカレーターのように自動的に上がっていける。そう考えた人たちは、かつてユーザーに認められようと目をギラギラさせながら働いていた野性的な姿が失われ、牙を抜かれたようになってしまった。まさに「動物園状態」が生まれつつあったのです。

 やっぱり、人間は弱い……。

 そう思わずにはいられませんでした。人は一度幸せになると、それ以上を求めなくなる。自分の身を削ってまでユーザーに尽くそうと思う人はほとんどいないのです。

 もちろん、競争のない社会であれば、それでもいいのかもしれません。手にした成功を守り続けることさえできれば、幸せのままでいられるのかもしれない。しかし、ネット業界は変化のスピードが速く、競争も激しい。常に、新しい「価値」をつくり続けなければ、あっという間にユーザーに見放されてしまいます。

 この世の中は、求める者と与える者のエコシステムです。だから、ユーザーに喜んでもらった結果、会社が潤い、社員も豊かになるという循環を回し続けることがいちばん大事。会社を「動物園」にしてはならないのです。動物園に安住して、エコシステムに適合できなくなったときに幸せは簡単に失われてしまいます。幸せの先に幸せはないのです。