漢方薬って、本当に効くのか。疑問に思っている人も少なくない。まずは近代医療の補助として漢方薬を使ってみるという手がある。そこで、『ダイヤモンドQ』編集部では、帝京大学医学部の新見正則准教授が提唱する「モダン・カンポウ」を例に使い方などを紹介する。
うさんくさい等
マイナスイメージ漂う
漢方薬──という名称を聞いて、まず何を思うだろうか。「年寄りの気休め」「うさんくさい」等のイメージが大半かもしれない。肝心の効果にしても「体質改善」「副作用が少ない」など良い印象もあるだろうが、「すぐに効く」「よく効く」という切れ味を期待する人はまず、いない。
しかし、漢方薬にも即効かつよく効く薬はある。論より証拠で一つ症例を挙げよう。それはこむら返り。
こむら返りはふくらはぎの筋肉がけいれんして生じる症状だ。就寝中や早朝に突然、激痛に襲われる。ギーッと引きつる筋肉を押してももんでも無駄。消炎鎮痛剤を飲んだところで無効である。七転八倒しながら治まるのを待つしかない。
ところが、西洋薬でお手上げのこむら返りに漢方薬の芍薬甘草湯が効く。服用してから効き目が出るまでの時間は、わずか数分だ。睡眠中のこむら返りが癖になっている人は枕元に常備するか、就寝前に1包飲んでおくといい。
ただし、芍薬甘草湯_に含まれる甘草は、血圧を上げる偽ホルモンのような作用がある。長期的な副作用を避けるために漫然と服用しないこと。ある程度、軽快したら八味地黄丸を予防的に服用すると安全だ。芍薬甘草湯は、発作時の頓服で十分に役立つ。
西洋医学の限界を補完
モダン・カンポウとは
帝京大学病院の外科外来で「血管・漢方・未病・冷え性」の診療を行っている新見正則准教授は、「漢方はうさんくさい」と公言する一人だ。しかし、外来では当たり前に漢方薬を処方し、伝統的な漢方とは少々違う「モダン・カンポウ」の提唱者でもある。
きっかけは、2003年に開設した「セカンドオピニオン外来」(現在は閉鎖)だった。他院に先駆けた珍しさも手伝ってか、現代医療の枠からはみ出した患者が殺到した。その訴えに耳を傾けるうちに、西洋医学の限界を認めざるを得なくなったという。
胃がん切除後のムカつき、手足のしびれ、冷えなど、検査値や検査画像では捉え切れない病に対し、西洋医学は無力だった。これを何とかしようと、次の一手を考えたときにたどり着いたのが漢方だ。理由は簡単。漢方薬が保険適用だから。
「そこそこ効く、しかも副作用の少ない薬が保険で安価に使える」なら利用しない手はない。
当初は、東洋医学特有の用語に抵抗があったが、自分自身と家族を実験台に行った「臨床研究(?)」で効果を実感。漢方界の大家である松田邦夫・漢方医学研究所松田医院院長の元に通い、漢方医学の実臨床を目の当たりにするうちに、ためらいは払拭された。
「体を森林に例えると、木を診て木を治す西洋医学的治療と、森を診て森全体を治すことで、木も治す漢方は、ちょうどいい補完関係にある」と新見准教授は言う。
世界的には東洋医学と西洋医学を担う医師は分かれているが、幸い、日本では一つの医師免許で西洋薬も漢方薬も処方できる。一人の医師が最先端の抗体医薬品も伝統的な漢方薬も使える、日本のユニークな制度を生かす方法論が必要なのだ。
その点、新見准教授が提唱するモダン・カンポウのスタンスは、漢方独特の用語や伝統的な診断法をいったん、脇に置いて「先達の臨床経験から、打率が高い“定石”を選び、フローチャートの順番に患者に処方する」というシンプルなもの。1800年にもわたる実臨床での淘汰を経た漢方薬だからこそ可能な手だ。
漢方薬を処方する際も、西洋薬・西洋医学的治療は継続が原則。だが、心身のバランスを漢方薬で整えるうちに、西洋薬の作用に心身がよく反応するようになり、いつの間にか減薬できるケースも珍しくはない。