今年カンヌのテーマは
“Human Good”

 6月21日~27日、フランスのカンヌで行われた広告業界の世界最大の祭典、カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルに行ってきました。私にとっては、これで6回目のカンヌとなります。

 クリエイティブな仕事に携わる者として、世界最高水準の作品に1週間も触れ続けることで得られるインスピレーションは、さまざまな卓越した才能の存在への驚きとともに、アイデアのクオリティの高さに嫉妬し、打ちのめされる時間でもあります。

 そんなカンヌですが、今年は特に、例年とは違う意味での驚きと、ある種の戸惑いを感じる1週間となりました。

 ここ最近のカンヌは、“Social Good”というテーマがとても重要視されています。商用広告の枠を超え、さまざまな社会問題をクリエイティブで解決しようというメッセージが込められた作品が評価される傾向にあります。今や、企業だけではなく、NPOやNGOといった団体までが作品を携えて参加するイベントへと変わってきたのです。

 ところが、今年のカンヌでは、この“Social Good”のトレンドがさらに加速したのと同時に、一方で、方向性がこれまでとは大きく変わったようにも感じられました。

 これまでは、どちらかというと、地球環境の保全という概念に関わる、「サステナビリティ」「環境破壊」「エネルギー問題」などをテーマにした作品が中心でしたが、今年はこれら“Earth Good”なものよりも、人の生に関わる、「人権」「差別」「人命」など“Human Good”をテーマにした作品が数多く登場しました。

 その大きなきっかけの一つが、世界で女性の社会進出を支援するNPOであるLeanIn.orgが協賛し、今年のカンヌで性差別や偏見を打ち破るクリエイティブを讃える趣旨で新設された「グラスライオン」です。

 そのグラスライオンの初代グランプリに選ばれたのが、P&Gインドが行った、生理用品のキャンペーン「TOUCH THE PICKLE」です。これは、生理中の女性はピクルスの壺を触ってはいけない、というインドのタブーに挑戦したものでした。

 セレブリティやメディアも巻き込んだ結果、これが大きなムーブメントになり、290万人を超える女性がこのキャンペーンに参加、インドにおける同社生理用品の支持率も21%から91%に上がったといいます。