>>(上)より続く
銭ゲバの夫には「離婚」も
「儲け話」の一つ!?
「前々から勘付いていたと思うけれど…母さんは父さんと別れたがっているよ。今回ばかりは決心が固いので、僕の方で母さんを翻意させるのは難しそう。そういえばこの前、母さんは『お父さんが離婚してくれれば年金以外は何もいらない』と言っていたよ。
ちょっと計算してみたんだけれど、父さんは今まで月に7万円、母さんに渡していたよね。もちろん、離婚すれば渡さなくてもいいし、その代わりに年金を4万円、渡してくれればいいから、これからは3万円も浮くんだよ。結構、いい話なんじゃないかな?」
もちろん、勇さんもいきなりの「妻からの三下り半」に相当驚いた様子で動揺しており、2人の間には15分ほど沈黙の時間が流れたそうです。シーンとした食堂で、勇さんは目の前に散らかった通帳をぺらぺらとめくったり、証書の表裏をくるくると返したり、投資信託のパンフレットを三角形に折ってみたりして落ち着かない様子でした。
その日は、とりあえず勇さんが「まぁ、考えておく」と言い、圭介さんは施設を後にしたのですが、勇さんはまんざらでもない様子だったそうです。
結局のところ、勇さんの思考回路は非常に単純明快で、複数の選択肢を用意されたら「金銭的に得な方を選ぶ」ようにできているのです。資産運用であろうと、家庭生活であろうと、離婚沙汰であろうと。どうやら勇さんの目には「妻との離婚」は、ある種の儲け話、そして圭介さんは儲け話を持ってきた業者の人間に映ったのかもしれません。そもそも勇さんには、しばらく経てば「自分が死ぬ」という発想が抜け落ちていたように思えます。だから、毎月3万円という金額が「長い目で見れば」自分にとって大きな得だと勘違いしたのでしょう。しかし、本当にそうなのでしょうか?
男性の平均余命は80.21歳なので(平成25年の厚生労働省の簡易生命表)現在、78歳の勇さんにはあと2年しか残されていないとも考えられます。妻からの離婚に応じても、2年間で得られるのは、わずか36万円(月3万円×24ヵ月)に過ぎませんが、そんな微々たるお金に目が眩んで、50年も連れ添った妻と離婚するなんて、全く釣り合いが取れないように思えます。しかし、妻の美智子さんにも同じことが言える(50年も連れ添った夫と離婚するのに、微々たる年金しか請求しない)ので、やはり夫婦のことは夫婦しか分からないのでしょう。
このように「離婚しない場合の支払>離婚する場合の支払」だからこそ、最終的には勇さんから離婚の同意を取り付けることができましたが、もし逆なら、同じ結果を得られたでしょうか?