持続的成長に向け
自分を変え続けて行くモチベーション

松江 私はこの業界に入って長いのですが、昔は選択肢がなくて選べない時代だったんですね。自分でつくっていくしかない世界でやってきたんです。今のメンバーと話すと、自分はどれを選んだらいいのかわからないと言うんです。選択肢もあるし、情報もいっぱいある。だけど、どれを選んでも、本当の満足は得られないみたいなんです、一方で、何か満足したいとか、何かを追っかけて自分から共感できる何かをどこかで探しているような感じがするんです。追いかけ続けていく何かがないと、やり続けることはできないですよね。

岡田 私はよく、反骨心を煽るような、“ブラック”なパワーを使うんですけど、これは強烈ですよ。ものすごく。ただ長続きしないです、これは。なんか短期決戦とか、ここという時にはね、そういう“ブラック”なパワーのほうが強いときが多いです。例えばハングリー精神って言うじゃないですか。ただ、これからの時代は、特に今の日本でハングリー精神は無理ですよ。これからの時代は、おっしゃるように色々と選ぶことが出来る時代だから、違ったモチベーションが必要なのだと思います。私が大事だと思うのは、感謝からのモチベーションです。これはありがたいことだな、だからこういうことをしようとかね、この人のお陰でこうなっているから、こういうことをしようとか、そういう時代に入っていくと思います。私はどっちかいうと、ブラックなパワーが強烈なところがあって、「この野郎」と思って上がってきた。でも、それは長く続かない。最近は、どこかに感謝することとか、パワーになるんだなと感じてるんですね。これからハングリー精神に代わっていくのは、そういうものなのかなと思います。

松江 まさにいま、岡田さんは世界を目指して、新しくFC今治のオーナーとなりました。もともとはどのようなきっかけと思いで始められたのですか。

岡田 元々はワールドカップを見ていて、日本のサッカーこのままでいいんだろうか。キチッとした、子どものときに型を作って、そこから抜け出るシステムにチャレンジしてみようと思ったことがきっかけです。それを育成からトップまで、同じフィロソフィー、同じトレーニングメソッド、プレースタイルのチームをつくりたい、と考えたのが始まりでした。

 Jリーグのチームを任せると言ったお話も頂いたんですが、新しいものを作ろうと考えると、今あるモノを1回潰してというのはやりたくなかったので、今治で一からやろうと決めました。もう一つやろうと思った理由は、今治なら、みんなが一つになれるかもしれない、と思ったからなんです。

松江 FC今治には、企業顔負けの立派なミッションステートメントが掲げられています。

岡田 FC今治にはなんでサッカークラブなのにと言われるようなミッションステートメントが入っています。世界平和であったり、環境に考慮した会社になります、といった内容です。それは環境活動をもう35年以上やっているとか、私のいろんな原動力の元、私が野外体験活動をしたり、自然環境教育とかやったり、そういったところからはじまっているのですが。今回のミッションステートメントには、我々は国際交流を通じて、国境というボーダーじゃない、サッカー仲間というボーダーで世界平和に貢献しますとか大きなこと言っています。

 そういうことを言う私の根本は、世界を救おうとか人類を救おう、といったことじゃなくて、私の3人の子ども達なんです。この3人の子どもたちに、俺は父親としてどういう社会を残していけるんだろうという思いが原点です。だから、どんなことがあってもぶれようがない確固たるものですね。

松江 実際にそういった「志」や「思い」から取り組もうとされていることは、ほんと地方のクラブをサラのところからつくっていく将来だから、不確実ではありつつも、他には味わえない夢とロマンを皆たぶん感じるのだと思います。

岡田 今治でやると決めてからは、いろんな妄想がどんどん浮かんできました。FC今治だけが強くなっても、それじゃつまらない。地元の少年団、中学校のサッカー部、高校のサッカー部と一緒になって一つのピラミッドをつくる。もう高校は全部回って、先生方に、うちからコーチ派遣しますよとか、いろんな交流をやりましょうと。私は向こうにちょっと大きな家を借りて、自分のリビングをカフェ・ド・オカダにして、サッカー仲間が夜な夜なみんな、どんな少年団の指導者でも誰でもいいです、そんなみんなでビデオ見たり、酒飲んだりしながらサッカー談義をするような場にします、とか。そういうようなことで、全体で一つのピラミッドを作る。

 その頂点にいるFC今治のトップチームが面白くて強くなれば、おそらく全国から育成に入る。もう来ているんです、実は、育成に入りたいという子ども達が。いや、アジアからも来るでしょう。そして指導者も、勉強したいといって、これもたくさん来ていますけど、アジアからも来るし。私は妄想するんですけど、そうやっていろんな人が集まって来るなら寮をつくらずに、おじいちゃん、おばあちゃんしかいなくなったところにホームステイさせてみたり。そしておじいちゃん、おばあちゃんが、この子らの料理をどうしたらいいんだと料理教室したり、英会話教室とかと妄想が広がっていく。いろいろ考えていると気がついたら人口17万人の今治が、ほんとにコスモポリタンで、みんなが生き生きしてるような町にならないかな、と。そういう夢を語ってたら、いろんな人が協力してくれるようになってきました。あと、スタジアムをつくったり。ヨーロッパに行ったら、必ずドーモ広場とか、町に大きな広場があるんですよ。優勝したらそこで集まる、何かあったらそこへ集まる。ところが日本にはそういう場がない。スタジアムを町のそういう場にするような、そういうものをつくりたいとか、どんどん広がってきています。

松江 今治での取り組みをお聞きすると、今までの「志」を超えるものを感じますね。

岡田 そういうことを志向する中で競争のない社会が理想かなとかも考えています。でも、現実には生存競争にさらされていて、これには絶対勝たなきゃいけない。要は生存競争に勝たないと、これは存在する意味がない。しかしそれを越した過剰な競争は必要ない。自分の中ではそこを分けて、今治でやることは生存競争だと思って、今やっています。

 多くの方々が賛同してくれて、未来の価値や夢にかけてくださっている。自分でも不思議なんです。この社会に、みんな閉塞感を感じていて、何かに飢えてるんだなと、ものすごく感じます。

 最近も夜寝ていて、フッと目覚めることがあります。えらいことになるな、いい加減なことできないなと思うと、ズシリと責任を感じます。それはちょっと私でもわかんないですけど、とにかくほんとありがたいことですよね。

松江 今治から始まる挑戦に本当に期待しています。本日は有難うございました(本記事の内容も含む新刊はこちら)。

(対談後記)
「自己変革力の秘訣-松江の視点-」


勝ち続ける組織の秘訣を「進化するより前に変化する」、「生物的組織」と端的に表した岡田氏の言葉は金言である。自らが考えて相互作用して自律的に動ける生物的組織、そこに導くために岡田氏が実践した数々のリーダーシップに学ぶことは多い。「すべき」の押し付けではなく「気付き」を与える、夢と現実感ある目標を両立する、スランプに陥った際に這い上がる時を捉えて手をさしのべる、メンバーに温かい眼を持ちつつ、最後は孤独に耐えて一人冷静に決断する、等々。FC今治のオーナーとして更に新境地を拓く岡田氏の姿は、「持続的成長への挑戦」を可能にするリーダーの本質は、新たな地平を志す飽くなき“ロマン”と、人生のどん底を経験したものが持ちうる“心の強さ”にあることを教えてくれる。