稲盛和夫オフィシャルホームページ/http://www.kyocera.co.jp/inamori/
Photo by Aiko Suzuki
1959年、27歳の時に京セラ、1984年に第二電電(現KDDI)を創業した稲盛和夫氏。さらには2010年に日本航空の経営再建を要請され、2年という短期間で見事にV字回復を果たした。「経営の神様」とも称される稲盛氏だが、その経営哲学はいかにもシンプルである。「人の心を大切にする」「人として正しい道を踏む」――。経営者として50有余年の歴史を刻んできた稲盛氏が経営の心、人生の心を語る。(聞き手/ダイヤモンド ハーバード・ビジネス・レビュー編集部)
「人の心」を大切にする経営
――これまで稲盛さんは人の心を重視した経営を貫いてこられました。それほどまでに人の心が大切と思われるようになったのはいつ頃からなのでしょうか。
もう若い頃からです。私は27歳の時、私の持つ技術を理解する方々に資本金を出していただき、会社をつくりました。ただし、その私の技術も当時はまだ大したものではありませんでした。自分のお金もなく、大した技術は持たず、まさに徒手空拳で会社をスタートさせたのです。頼れるものはそこに集まってくれた二十数名の社員たちの心しかありませんでした。その人たちの心を頼りにして、力を合わせて何かをやっていこうと考えました。
人の心は、はかなくて頼りないものです。でもひとたび素晴らしい心の結びつきができれば、これほど頼りになるものもありません。私はそのことを信じて、人の心と心の結びつきをベースに置いて経営を行ってきたのです。
人間は心で思ったことを実行に移して生きています。その人がこれまで心に思い描いたものが、嘘偽りなくその人の現在の環境や置かれている立場をつくり、さらには人格や人柄を形成しています。ことほどさように、心の作用は大きいのです。その意味で、人の心を大事にすることは経営にとって最もエッセンシャルな部分だと思っています。
――人の心を大切にすることと合わせ、企業は社会の発展に貢献する必要があるということも昔からおっしゃっています。企業家として、まだ自分の事業が安定しない段階でそのような境地に至るのは、普通の人にはなかなかできないことのように思うのですが――。
社会貢献をそんなに難しく考える必要はありません。大それたことを考えなくても、経営者は社員の雇用を守ることが大きな社会貢献になるのです。全国の中堅・中小企業の経営者の方々が集う盛和塾でも、社員を抱えてその人たちの生活を守っていくことだけでも、大変立派な社会貢献ですといつも言っています。日本の社会は中小零細企業が底辺を担っています。大企業の社員よりもはるかに数の多い、中小企業に勤める人たちの雇用を守ることは、日本の社会を支える立派な社会貢献なのです。