3月末、中国政府の幹部は、不動産税導入の準備が進められていることを明らかにした。また同月には、北京市政府が高人気エリアの土地売買を強制的に停止する措置をも断行している。中国政府はバブル抑制に躍起だ。懸念は中国だけではない。インド、オーストラリア、ベトナム、マレーシアは、インフレと資産バブル抑制のため、利上げに踏み切った。
新興国や資源国のバブル懸念には、一因として先進各国の緩和政策で溢れたマネーの流入がある。特に、低金利の米国で借り入れ、それらの国々に投資する「ドルキャリートレード」によるものだ。
ドルキャリーによる新興国のバブルとその崩壊は、1980年代の中南米、90年代のアジア通貨危機など、過去何度も繰り返された。崩壊の契機となったのは、米国の利上げである。ところが今回は、米国が低金利政策継続の一方で新興国が利上げを始めており、いっそう新興国にマネーが吸い寄せられる結果となっている。
為替市場では、このところユーロ、英ポンドの下げが相場テーマとなっており、ドルは強含みで推移してきた。だが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの細尾忠生研究員は、「中長期的には緩やかなドル安トレンドが続く可能性が高い」と指摘する。「先進国と新興国の成長率格差という世界的な経済構造そのものがドルキャリーの根本要因となっている。ドルが安定していることがドルキャリーの前提だが、基軸通貨であるゆえの底堅さのため、大崩れもしない」(細尾研究員)。さらに、新興国成長の期待を背景にしたドルキャリーの結果、ドル安、株高、原油高の相関も高まっている。そしてそのドルキャリー自体が、ドル安を加速する方向に働く。
マネーの流れは、一つの契機で一挙に逆転する。そのリスクをはらみつつも、ドルキャリーによる新興国や資源国への資金流入は当面続きそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)