孫子からクリステンセンまで、3000年に及ぶ古今東西の戦略エッセンスをまとめた書籍『戦略の教室』から、特に有名な10の戦略を紹介する連載。第8回は競争優位理論の世界的古典であるポーターの『競争戦略』。「ファイブ・フォース」をはじめ最低限知っておくべき教養を一気に学ぼう。

ビジネスの競争において勝者と敗者を分ける要因とは何か?

「防衛」と「参入」、競争の基本としての2つのアクション

 マイケル・ポーターといえば「競争戦略」の分野では知らない人がいない大家です。史上最年少でハーバード大学の正教授となり、著作『競争の戦略』は世界中の経営大学院でテキストとして使われています。にもかかわらず、ポーターの理論を理解している人、詳しく読んだ人は、意外に多くないのではないでしょうか。ポーターの理論で有名な内容は次の2つです。

・5つの競争要因(ファイブ・フォース分析)
・3つの基本戦略(コストリーダー、差別化、集中)

 実際には、この2つの内容は『競争の戦略』の前段に過ぎません。同書の中盤から後半は、ほぼすべて“参入障壁”の分析と活用法が解説されています。

【競争の基本としての2つのアクション】
(1)自社の「防衛力」を高める
(2)他社の業界に効果的に「参入」する

 自社の防衛力の強化は、相手への「参入障壁」であり、みなさんの会社が別の業界を攻めるときは、自社は「参入障壁」を突破する側です。攻守において相手と自分を隔てる壁を、徹底的に強化・攻略することこそポーターの理論の神髄なのです。

ロブスター漁業に大規模化を持ち込んで破綻したある企業

『競争の戦略』に、プレルード・コーポレーションの失敗例が出てきます。「ロブスター漁業のGM」を目指した同社は、最新技術の高価な漁船で大船団を組み、船の修理やドック施設も社内に備えて、トラック輸送やレストランと垂直統合も進めました。ロブスター漁業に大規模化を持ち込んで勝とうとしたのです。

 隙のないように見えた同社の参入は、零細漁民たちから猛烈な反撃を食らいます。漁民が値段を限界まで下げ始めたのです。間接費や固定費が多くなった同社に比べ、零細漁民の「何でも自分でやる」「家族が食べていければ十分」という低コスト化が可能な環境に太刀打ちできず、プレルード社はやがて操業停止に追い込まれました。

 零細漁民は、大手企業の参入を「防衛力」をフル活用して撃退したのです。ジレット社がデジタル時計のテスト・マーケティングをしたときも同じ結果となりました。同社の動きに反応した既存企業の大幅な値下げ攻勢で、ジレットは参入を諦めたのです。

 一方、タイメックス社はスイス製腕時計が支配している業界に参入する際、低価格だが丈夫な製品を発売。時計の流通の中心だった宝飾店ではなく、スーパーマーケットなどを中心に売り場を展開して大きくシェアを伸ばしました。

 スイス勢は高級品が主力のため、低価格で反撃できず、支配していた既存流通とは違うマーケットに進出されたことで、タイメックスの動きを阻止できませんでした。攻守共に、参入障壁を効果的に使いこなす側が「競争の勝者」になるのです。