大手自動車メーカーと
テスラとの違いは何か?

 フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車が排ガス規制を逃れるためのソフトウェアを搭載していたことが発覚し、大きな問題になっている。排ガス検査時と実際の走行時とで排ガス浄化装置の稼働を調整するソフトウェアが搭載されていた、とされている。

 対象となるVW車は1100万台に上り、リコールによるソフトウェア交換が行われるであろう。リコールは大変な労力と費用がかかる。オーナーを特定し、手紙などで連絡し、最寄りの修理工場やディーラーでの修理のスケジュールを立て、メカニックが修理(今回はソフトウェアの交換)を行う。規制当局への報告作業もある。

 現代の車は多くのコンピュータで制御されており、ソフトウェアの重要性は高まるばかりだ。しかし、パソコンのソフトやスマートフォンのアプリのアップデートのように、ネットと通じて自動的に行われるようにはなっていない。

 一方、テスラの電気自動車は、パソコンのようにソフトウェアをオンラインで改訂できる仕組みになっている。それぞれの車がネットにつながっており、ソフトウェアや電池・モーターなどの部品の状態などが常時監視されており、データの分析により故障の前兆が見られた場合は、ドライバーに直ちに連絡が行く仕組みだ。ソフトウェアに問題があれば、可能な限りネットを通して自動的にアップデートされる。スマートフォンと同じ仕組みだ。

既存のメーカーも
コネクテッド・カーへ向かうが…

 では、既存のメーカーの車がネットにつながり、テスラのような仕組みになっていれば、どうなっていただろうか?

 まず、リコールという仕組みが根本的に変わる。ソフトウェアのアップデートは、技術的には瞬時に可能だ。そして、車1台づつの記録がすべて規制当局に報告可能となる。車の機構そのものや安全に関わる組込みソフトなどの修理が必要な場合は、もちろん物理的な修理が必要かもしれないが、その通知やスケジュール管理などは著しく簡便になるだろう。

 さらに、車のセンサーからのデータを常に監視する中央システムにより、大きなリコール問題となる前に修理を行い、問題を早めに摘むことができる。その監視システムの関係データが規制当局に報告される仕組みになっていれば、理論的にはガラス張りのコンプライアンスが可能となる。

 今回のVWのような不正問題はどうなるだろう。中央システムで常にデータを監視できるわけだから、そもそも特定エンジニアしか知らない不正ソフトを埋め込むのは難しい、と考えることができる。しかし、一方で中央システムで巧みに操作して不正が発見しにくくなる、と危惧することもあるだろう。今のところ明確な答えはない。

 ネットでつながった車がさらに自動運転となった時、その中央システムがテロリストに乗っ取られたら車による同時多発テロが可能になるのでは、と冗談半分で心配する人がいる。突然、自分の車が方向を変えてガソリンスタンドに突っ込むなどという映画さながらのシーンが現実的になってくる。

 車がネットにつながる「コネクテッド・カー」はすでに実用の段階を迎えているが、このような利便性・効率性とセキュリティー・コンプライアンスの両立はこれから問題になる点だ。