秋田大学によるとこの9月、大学院工学資源学研究科の伊藤英晃教授が、胃がん発症のリスクを高めるとされるピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の駆除に有効な化学物質の作用を解明。その成果が英科学誌「サイエ ンティフィック・リポーツ」のインターネットオンライン版に掲載されたという(http://www.sakigake.jp/p/akita/news.jsp?kc=20150923h)。
恒例のノーベル賞日本人受賞者騒ぎもようやく収まったが、このような地道な研究の積み重ねが将来のノーベル賞や技術の進歩につながっていくのだろう。地道な研究、といっても「ピロリ菌の研究が何の役に立つのですか?」と質問されることはないはず。それほど悪玉としてのピロリ菌の存在は広く知られている。だが実際に治療を受けた人や健康に関心のある人以外で、ピロリ菌の悪影響や治療法を知っている人は少ないのでは?
ピロリ菌は胃の粘膜に生息し、主に胃や十二指腸などの病気の原因になる。多くの場合幼少時に感染し、一度感染すると除菌しない限り胃の中に棲み続ける。まずピロリ菌がつくる酵素ウレアーゼと胃の中の尿素が反応するとアンモニアが発生し、胃の粘膜を傷つける。また菌そのものから胃を守ろうとする免疫反応によっても、胃の粘膜に炎症が起こり慢性の胃炎につながる。
この慢性胃炎(ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎)には、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃がん、さらには全身的な病気などを引き起こすおそれがある。ピロリ菌を胃の中に飼っておくことは、さまざまな病気を引き起こす爆弾を抱えているようなものなのである。
胃もたれや吐き気、空腹時の胃の痛みなどを「胃の調子が悪いんだな」で片付け、市販の胃薬を服用しておしまい、という向きは多いだろう。これらの症状は、慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍であるかもしれず、あなたの胃にピロリ菌が棲んでいるかもしれないことを示している。一説によると日本人のピロリ菌感染者の数は約3500万人に及ぶというから、胃の調子が悪いなら高確率でピロリ菌がいることになる。