仕事の場面でもよく使う
第3の方法、アブダクション

 アブダクションを日本語でいうと「発想法」です。集めた事象をうまく説明できる仮説を見つけることです。日常の仮説生成はブレインストーミングやKJ法がよく使われます。これらもアブダクティブだと言ってもよいでしょう。ある仮説で事象がうまく説明できるのであれば、その仮説は「とりあえず正しい」ということになります。

 この仮説生成力を店舗で働くパート人材にまで身に付けさせているのが、セブン-イレブン・ジャパンです。明日は近くの学校で運動会があるから、いつもより清涼飲料水の在庫を増やしておこうとか、明日の日曜日は晴れそうだから、近くの川が釣り客で混雑するだろうけれど、気温が上がって暑くなりそうだから、痛みにくい梅干しのおにぎりが好まれるのではないかなど、さまざまな事実を総合しながら、日々、売れ行きが伸びる仮説を考え、実行しています。

 しかもその仮説は、売り上げデータという冷厳な事実で即時に検証されます。仮説が当たれば喜び、失敗したら反省して、新たな仮説生成につなげる。つまり、成否の要因を考えて、翌日、より精度の高い仮説生成に挑戦することになります。当然、数をこなせば仮説生成力は飛躍的に高まっていきます。

暗黙知とは何か

 帰納法やアブダクションを行うには、暗黙知の量と質を高めることが必要になります。新しいアイディアやコンセプトを思いつくに、われわれは自分の経験から得た知識、とくに暗黙知を基盤にしてそこから新しい意味を創り出しているのです。

 たとえば、初めてハワイに観光旅行に行ったとします。まずは名物のフラダンスを見て、次はバスに乗ってオアフ島を一巡りし、途中でハイビスカスの花の匂いをかぎ、広大なパイナップル畑に感嘆しました。目的地であるワイキキビーチについたら、青い海を目の前にした広大な砂浜でたくさんの海水浴客が思い思いに遊んでいる光景が目に入りました。

 ここでは簡潔に言葉で表していますが、実際は、すべて直接経験です。経験したことの中身をすべて言葉にするのは無理です。フラダンス、パイナップルくらいは言えても、内容を微細に描写することは、優れた小説家でもない限りできません。しかし、暗黙的に得た知識を総合して、たとえば、「ハワイのコンセプト」をつくってみることはできるでしょう。ここまでのハワイにおける直接経験からですと、コンセプトは「南の島のパラダイス」といったことになります。旅行ガイドブックにもそういう情報が満載ですから、そこで得た形式知によっても、直接経験から得た認識は補強、強化されます。

 ところが、ハワイはそういう面ばかりを持っているわけではありません。

 真珠湾まで足を伸ばしてみてください。太平洋戦争における日本の降伏調印が行われた、戦艦ミズーリが湾内に係留されており、その威容に目を見張らされます。戦争博物館もあり、日米開戦の火ぶたが切られた真珠湾攻撃で、ゼロ戦から放たれた機銃の弾の跡が生々しく残った壁が展示されています。ハワイ州には多数の海兵隊員がおり、現在のハワイはアメリカ海兵隊最大の前進基地であることもわかります。歴史を振り返っても、ハワイなくしてアメリカは日本との戦いに勝てませんでしたし、現在の日米安保条約も成り立ちません。

 このように、より大きな視点に立ち、より大きな視野でハワイを見ることによって、ハワイのコンセプトは「太平洋の安全保障の重要拠点」という認識に到達することができるのです。そうなると、先ほどの「南の島のパラダイス」という捉え方はハワイの一面を捉えたものにすぎないことがわかります。