唯一解がない課題を解くための熟断思考法

 ロジカルシンキングだけで最終結論が出ないのは、別の見方をすれば「PDCAの高速回転アプローチ」が効かないケースです。PDCAというのは、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)をサイクルしていく事業管理手法ですよね。これが有効でないというのは、次のような「課題」の場合といえます。

(1)PDCAの1サイクルの実行に時間がかかる
(2)多額の経営資源が必要
(3)うまくいかなかったときの影響が甚大
(4)解を作り上げ実行するのに様々な人たちの知恵とスキルが必要

 逆にこれらの要素のどれもあてはまらない場合は、ロジカルシンキングで「うん、これなら行けそうだ」という取りあえずの解が見つかったら、号令一下、直ちにPDCAの実行と軌道修正モードに入れば良いのです。

 では、ロジカルシンキングで解けない課題を解く場合は、どうすればよいのでしょうか。

 繰り返しになりますが、唯一の正しい解はありませんから、自分がこうありたい、と思う姿を心に定める作業が必要です。それも、自分たちの組織の遂行力で実現できる姿でなければ意味がありません。それも、単にえいやっと勢いで決めるのではなく、様々な可能性を検討したうえで意思をもって決めるという意思決定が必要です。

 私は、そうした意思決定を造語で「熟断思考」と呼んでいます。

 熟断というのは熟慮断行の略です。天才ではない普通の人たち(チーム)が知恵を結集して、あっちかこっちか賢く迷い、意思決定するまでの思考を指します。近年、ビジネスにおける意思決定のスピードや即断即決の重要性が強調されてきましたが、「スピードがすべて」「速ければ速いほどいい」というのは明らかに行き過ぎだと私は思っています。その風潮に一石を投じたく、熟断思考を提唱してきました。

 こうした課題については、明快に理由を説明し「こうする!」と力強く意思決定できる、カリスマ的リーダーでなければ解けないのではないか、と不安を感じる方もいると思います。しかし、それは大いなる誤解です。私の師の一人でもある有名コンサルタントの大前研一さんのように、パッと一足飛びに課題設定から素晴らしい解決策までひねり出せる人はごく稀ですし、常人には真似のできない芸当です。でも、普通の人でも、ある程度方法論を学んで訓練を通じて身につけ、パッションを持って考えれば、そこそこの天才ぐらいは越えられるというのが私の持論です。