「マルチユースで設定した1500億円を上限として、マルチユースかスポーツ特化かは限定せず、提案者に委ねる。メンテナンス費用低減とイベント収益増大策もワンセットにした、2020年2月までに完成する案を再度募集する」

 国家予算で作りますから、最終判断を下すのは首相です。国民の意思をできるだけ汲みとったうえで、国家百年の計でみて良いと思える結論を下してもらうことになります。政府の実際の検討がどのようになされたかわかりませんが、本来は決断に向けてこうした意思決定プロセスを踏まえてほしいものです。

 なお、上記は熟断思考による結論部分を簡単にご紹介しましたが、実際の検討では、様々なツールを活用しましたので、一例を挙げておきます。
 〇フォースフィールド・ダイアグラム:議論の対象となっている構想(今回の場合だと、ザハ現行案でこのまま進むべきか否か)について、推進の論点と反対の論点を洗い出すツール
 〇ストラテジー・テーブル:将来の嬉しさに大きな影響を与える重要意思決定事項(この場合だと、デザイン/屋根のタイプ/目標完成時期/建設費用メドの4項目)を横に並べ、その下に各意思決定事項における複数オプションをリストアップした上で、各意思決定事項のオプションを横に整合性をもって繋げていくことで、複数の包括的な選択肢を作り上げるツール
 〇トルネード・チャート:将来の嬉しさに大きな影響を与えそうな不確実要因(この場合だと、TLCに影響を与える年間メンテナンス費用、年間イベント収益、実際の建設費用、ザハ氏への補償金額など)について、上振れ・下振れした場合のインパクトを感度分析し、それをチャート化したツール。チャートが竜巻の形に見えるので、トルネード・チャート(=竜巻図)と呼ぶ)

意思決定の質を左右する6つの要素とは?

 さて、熟断思考の3ステップを紹介してきたので、意思決定の質を左右する6つの要素にも触れておきます。(詳しくは拙著『意思決定の理論と技法』をご覧になってみてください。)

・的確な考え方の枠組み
・創造的かつ実行可能な戦略代替案
・有用かつ信頼性の高い情報
・明確な価値判断基準
・明快かつ正しいロジック
・実行への関係者全体のコミットメント(やる気・覚悟・決意)

 これら6つの要素のうち、もっとも弱い部分が意思決定の質を左右します。どれも欠けてはならず、バランスが重要です。上記の熟断思考の3ステップと合わせて、質の高い意思決定をするのに役立てて下さい。(続きは後編へ。11/27公開)