三大証券の一角を成すSMBC日興証券が2位の大和証券の背中を捉えている。その理由をひもとく鍵は、持たざる者の強みにあった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)

 若い世代の顧客を獲得することに成功した──。今年11月の郵政グループ3社上場を受け、SMBC日興証券の幹部らは、新規口座開設データを見て色めき立った。

 そこに示されていたのは、営業担当者が付かず、オンライン取引を中心とする「ダイレクトコース」が全体の4割に達していたことだった。内訳を見ると、その8割が20~50代の顧客層であった。

 対面営業の平均顧客年齢が60代半ばと「高齢化」が進む中、今回、業界内では比較的「若い」とされる顧客層を全体で6割つかむことにつながったのである。

 起爆剤となったのが、今年4月に現物株の最低手数料を810円から135円まで引き下げ、大手インターネット証券並みにしたことだ。同時に、利便性でネット証券に遜色ないと自負するスマートフォンアプリも提供していた。

 また、呼び水となったのが「IPO銘柄が当たりやすい」というネット上の評判だ。日興には、大手ネット証券がほぼ持たない新規株式公開(IPO)を担当する部門がある。個人投資家に人気のIPO銘柄の扱いを増やし、一定量をネット向けに配分してきたことで、こうした評判を得た。

 中途半端な手数料収入を捨てて、ネット証券並みの手軽さと料金プランを提供したことが奏功したように、日興が今、活路を見いだしているのがITの活用である。

 そもそも、証券業界3位の日興は、業界トップの野村證券、2位の大和証券に比べ、営業体制が見劣りしていた。そこで急速にIT化を推し進め、オンラインの利便性と対面の営業力の「融合」に注力。つまりは、ネット証券と対面証券のいいとこ取りをする作戦だ。

 顧客情報の“ビッグデータ化”にも業界に先駆けて取り組んだ。営業マンが得た情報は全て「電子カルテ」に残す決まりとし、1分に満たない、ささいな通話内容までも記録する徹底ぶりである。

 ポイントは、このデータを遠隔地であるコールセンターに全面提供することにある。ここでは、勤務時間の3割が研修に充てられているため、スタッフの商品知識や対応力は現場の営業マンに遜色がない。その精鋭スタッフが現場から上がってきたデータを営業電話でフル活用するのだ。

 膨大な顧客ビッグデータを解析して、個々の投資スタイルに合う商品提案ができる仕組みも整えた。さらに顧客ごとに、いつ、どれくらいの頻度で営業をかけるべきかの分析も進めている。

 ここまで思い切ったIT化ができたのも、営業基盤が他と比べて脆弱だったからこそ。「持たざる者の強み」を発揮したのである。

 それだけではない。2009年10月に三井住友銀行(SMBC)傘下になったことで、銀行からの紹介による個人口座開設数が30万件を超えた。今年4月からは相続や税制関連の専門課を支店に設け、大手2社にはない銀行からの顧客にも手厚く接している。