今、日本企業の海外進出が加速しています。特に最近目立つのは中堅、中小企業の製造業の海外進出企業です。ところが、進出した日本企業が、海外ビジネスにおける競争力があるかというと、日本人が思っているほどの競争力はない、と言わざるを得ません。実はその原因の一端が企業経営者の「会計」に対する認識の甘さにあるという点を前回お話しました。今回は、特に「採算」という点における日本企業と経営者の危うさに注目したいと思います。
海外の製造現場で起こっている問題とは?
今、日本企業の海外の製造現場で「会計上の問題」が噴出しています。会計上の問題が、海外生産の採算を悪化させたり、取り返しのつかない状態にしたりしている例が少なくありません。言い換えれば、海外生産にかかる、企業の会計や計数管理を「進歩させる」ことが、日本の製造業復興に第一歩になるとも言えます。
問題の1つ目は、驚くことに「海外生産の採算を把握できていない」という点にあります。そもそも、日本企業の海外での製造現場では「採算」についてどのように把握しているのでしょうか。
大阪大学経済学部経営学科卒業。公認会計士。1985年、大手監査法人に入所。上場企業を中心に幅広い業種の監査業務に携わる。1995年、会計事務所系コンサルティング部門に移籍。アトランタ事務所ビジネスコンサルティング部門を経て、会計・経営管理分野の幅広いコンサルティングに従事し、2度の企業統合を経験している。2012年、プライスウォーターハウスクーパース株式会社常務取締役(コンサルティング部門代表)、2015年7月より、現職。
海外で製造した製品や部品の採算がとれているかどうかを把握するためには、まずは、原価が適切に計算されている必要があります。原価が適切に計算されるためには、原価計算の仕組みが構築されていることはもちろんですが、適切に原価を計算するために必要な数量情報、例えば「使用した原材料の投入量」「製造された製品の数量」「製品の在庫数量」などが正しく把握されていなければなりません。
必要な数量情報に加えて、「投入された原材料費」「製造の工程でかかる人件費」「電気代」「設備の減価償却費」などの経費も、適切に記録されている必要があります。これらの数量情報と金額情報を使って原価が計算されます。
読者のみなさんは、そんなこと当たり前のことではないか、と感じるでしょう。経営学を持ち出すまでもなく、そんなレベルのことは経営の初歩だ、と思った方もいると思います。
ところが、日本の製造業における海外子会社経営で問題が生ずる事例では、こうした数量把握が正しくできていない、金額が適切に記録されていない、ひいては、原価計算を行う仕組みそのものが確立していない、というケースが非常に多いのです。