というのは、フィンランドはもともと積極的労働政策を展開している国だからです。具体的には、企業は従業員の解雇を容易にできる一方で、職業訓練や失業手当などにより、労働者はスキルアップと転職を行なえるようにしています。労働者の権利は守りながらも、転職は当たり前だし働かざるもの食うべからずという、流動性が高く競争的な労働市場を作ることで、生産性の低い産業から生産性の高い産業への雇用のシフトを後押ししているのです。

 こうした労働市場には、ベーシックインカムの仕組みはよくフィットするはずです。最低限の生活が保証されれば、流動性が高い労働市場の中で自分の将来にあった動きを取りやすくなるからです。

 一方で、日本の労働市場は非常に硬直的です。未だに大企業は新卒一括採用、終身雇用に拘り、正規雇用と非正規雇用では給与水準も福利厚生も大きく異なり、また人生のステージに応じて正規と非正規を行ったり来たりすることも困難です。更に言えば、職業訓練の機会も、企業が主に正規雇用に提供するOJTか、ハローワークなどの公的機関が提供するベーシックな内容のものくらいしかなく、スキルアップを通じた転職が難しい国と言わざるを得ません。

 このように硬直的な労働市場では、多少頑張っても低賃金の状況から脱することはなかなか難しいと多くの人が思ってしまっているので、そこでベーシックインカムを導入したら、低賃金の人ほど働くインセンティブを失うことになりかねないのではないでしょうか。

やはり労働市場の改革が不可欠

 私は基本的にはベーシックインカムの考え方に賛成です。日本の社会保障は縦割りがひどく、その中で既得権益やら天下りやら膨大な人員を抱えていることを考えると、社会保障サービス全体をもっと簡素化して、無駄をできるだけ省くことは不可欠だからです。

 それでも、ベーシックインカムの導入を目指すべきかと問われたら、労働市場改革がほとんど進まずに労働市場が硬直的な中では、労働インセンティブの観点から悪影響の方が大きくなると考えられるので、反対と言わざるを得ません。

 こう考えると、労働市場の改革は経済・産業・企業・個人とあらゆる主体の生産性を高めるために不可欠ですが、同時にベーシックインカムを巡る考察から分かるのは、財政再建に必須の社会保障サービスの簡素化・効率化を進めるためにも不可欠だということです。

 安倍政権はおそらく今年夏の参院選までは大きな改革は進められないと思いますが、それでも、労働市場の改革を早く経済政策の最優先課題にすべきではないでしょうか。