結論からいうと、商品が買い上げられるスピードが違うのだ。これは有名な話なのだが、海辺の町で、釣り船の発着場へ続く道沿いにセブン-イレブンの店があった。ここで、いつも同じおにぎりの品揃えをしていれば、商品が買い上げられるスピードは他社と同じになる。

 ところが、「この週末は暑くなりそうだ。そうすると、お客さんも早朝に買いに来たとき、炎天下でも痛みにくい梅のおにぎりを選ぶのではないか」という仮説を立てるのがセブン-イレブンなのだ。そして、梅のおにぎりをいつもより多めに品揃えしておくと、それが瞬く間に売れる。

 長い冬の終わりごろ、少し温かくなる日がある。そうしたとき、「冬の間食べていなかった冷やし中華やアイスクリームを、急に食べたくなる人たちがいるのではないか」と仮説を立てる。それに合わせて品揃えを充実させておくと、それがまた売れる。こうした仮説を立て、商品が買い上げられるスピードを極限まで高めた結果が、圧倒的な1店舗あたりの売上高に表れているのだ。

 鈴木会長が、常々「我々の競争相手は同業他社でなく、めまぐるしく変化する顧客ニーズである」というのはここに理由がある。同業他社の店づくりを見ていても、結局フォーマットに収束していくだけで、差別化にはならない。本来の差別化を追求するなら、顧客の心の内側を見にいく必要があるということだ。鈴木氏がよく「経営を心理学で捉える」といわれる所以はそこにある。

常識に縛られていると
本質は見えてこない

 鈴木氏は出版取次大手のトーハン出身という異色の経歴を持つ。イトーヨーカドーの店頭支援で服を売ったこともあるが、「お前が立っていると喧嘩を売っているみたいだ」といわれたそうだ。ジェフ・ベゾスが小売業の門外漢でありながら、アマゾンを立ち上げ、小売業を根底から揺さぶる存在になったことと似ている。

 門外漢であるだけに、業界の常識には縛られない。例えば「現場に行け」「他店を見学しろ」はこの業界の常識だが、鈴木氏はそれを戒めている。情報が瞬時に伝わる時代においては、店づくりや品揃えのように、目に見えるものだけを見ていても、本質は見えてこないからだ。むしろ既存のモノの見方に汚染された情報をつかまされるだけと考えているようだ。

 例えば、多くの人が「多様化の時代」を唱える中で、日本人の姿は「画一化」しているというモノの見方を提示したことはよく知られている。皆が求めるモノがめまぐるしく変化しているから「多様化」しているように見えているだけで、その実態は、皆が同じブランドに飛びつく「画一化」。こうした「本当のようなウソ」を冷静に暴いてみせる。

 一時期さかんに唱えられた「コンビニ5万店飽和論」も同様だ。鈴木氏は一貫して「マーケットはいま大きく変化している。変化に対応していく限り、市場飽和はありえない」と訴え続けてきた。過去の常識から自由になることで、世界を新鮮な目で見ることができるのだ。