IFA(インディペンデント・ファイナンシャル・アドバイザー/独立系金融アドバイザー)に聞く、お金の新常識。今日は全国に店舗を持つ証券会社に勤務したのち、金融商品仲介業を立ち上げ、IFAとしても活動している森本佳奈子さんが、円滑な資産継承を行うための方法を解説します。

毎年コツコツ贈与するか<br />突然、全額相続するか…<br />そろそろ考えたい資産継承のこと切れ目のない円滑な資産継承を行うための方法とは?

突然発生するリスクに、無防備なままで大丈夫?

 私は、26年間大手証券会社で勤務した後、金融商品仲介業を経営する傍ら、IFA(インディペンデント・ファイナンシャル・アドバイザー/独立系金融アドバイザー)として、現在もお客様と接しています。

 通常、相続や贈与というと、節税などのテクニカルなアドバイスに偏りがちですが、ご家族にとっての心理的な壁を取り除く方法など、今回は、少し違った視点でもお話しさせていただければと思います。

 証券会社で取引をされている金融資産(預金、有価証券、保険など)が、5000万円~1億円を超えるような富裕層の人でも、家族ぐるみで資産を把握している例は稀で、相続が発生して初めて資産の存在を知るというケースも少なくありません。

 まして、計画的に毎年コツコツと贈与を行う「暦年贈与」などの対策をしている人は、一部の経営者の方や医師の方など、法人の顧問税理士をつけられていらっしゃる方でもない限り、ほとんどいません。

 その背景には、「配偶者へ、配偶者控除の範囲内で相続すれば問題ない」と考えていて、その後に発生する「二次相続」を考慮に入れていないことがあげられます。

 本来なら、そのお宅を担当していて、資産のことを把握している証券会社の営業員などが、資産継承についても的確なアドバイスをすればよいのでしょうが、数年で転勤となる彼らには資産継承を長期的にフォローするインセンティブがないため、それもなかなか進まないのです。

 では、ここで、暦年贈与にはどのくらいメリットがあるのか、下の表を見ながら考えてみましょう。

毎年コツコツ贈与をつづけるメリットとは?

毎年コツコツ贈与するか<br />突然、全額相続するか…<br />そろそろ考えたい資産継承のこと二人の子に暦年贈与した場合(左)と、全額を二人の子が相続した場合(右)で支払う税額比較。
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 上の表は、70歳から84歳(WHO発表の日本の男女平均寿命)まで、資産1億円を子二人に対して贈与、もしくは相続した際のシミュレーションです。

 表の左部分(オレンジ色部分)は、非課税控除の110万円を、子二人に暦年贈与した場合です。
 対して右側(青色部分)は、相続発生まで何もせず、全額を相続した場合です。
税額の差は、暦年贈与した方が、363万円低くなりました。

 なお、相続開始日から3年以内に贈与した資産については、相続財産に加算されますので、81歳から贈与した3年分は相続財産に加算して、税額を計算しています。

 1億円に対する363万円が、大きいか小さいかの意見は分かれるところと思いますが、これは全額が換金性の高い金融資産、または現預金だった場合です。

 もし、大部分にあたる資産が、すぐには売却できない換金性の低い資産だったらどうでしょう。

 かりに、1億円のうちの8000万円が、持ち家や需要のない土地などの、現金化が困難な資産であったとします。
 その場合、流動性の高い現預金、有価証券など2000万円から、770万円を相続税支払いに充てなければなりません。

 このように、手元に換金性の高い資産が少ない場合は、暦年贈与を行った場合との差額が重くのしかかってきます。
 日本の家計のバランスシートの左側は、持ち家を含む実物資産が多くを占めていますので要注意です。

 もちろん、資産を贈与する人数や、保有している資産の内容によっても資産継承のプランは大きく変わってくると思います。しかし、通常、換金性の高い金融資産の暦年贈与には、大きなメリットがあるといってもよいのではないでしょうか。

 なお、意外と知られていませんが、証券会社の口座にある投資信託や株式、債券などは、贈与する際に現金化する必要はありません。
 つまり、ご両親が保有している金融商品を、そのまま暦年贈与することも可能です。

マーケットの状況が悪いときであれば、一度に多くの資産を非課税控除の枠内で贈与することも可能になります。

 このようにメリットのある金融商品の贈与ですが、なかなか浸透していないのが現状です。

生前贈与に対する「心理的な壁」

 計画的な贈与が進まない背景には、心理的な壁があると思います。

 家族とお金の話ができないという方も多く、相続してから、「親父はこんなに持っていたのか」と驚かれることもあります。
 また、「うちのおじいさんはまだまだ元気だし、相続の話をすると気を悪くするだろうから」と、生前贈与の話を切り出さない方もいらっしゃいます。

 言われてみれば確かに私も、両親がいくら資産を持っていて、何で運用しているかを知りませんでした。それに、まだ元気なうちに亡くなった後の話を、切り出しにくいというのもわかります。

 しかし、入院してからあわてて贈与したものの、残念ながら亡くなられてしまい、贈与した資産が相続財産に加算されてしまったお客様もいらっしゃいました。

 そういうケースを見ていると、家族の間でお金の話がしづらいという心理的な壁を超えるにはどうしたらいいか、考えざるをえません。

IFA(独立系金融アドバイザー)を仲介役に

 心理的な壁をどう超えるか――。私は、それにはIFAを活用していただくのも一つの方法であると考えます。

 IFAとは、インディペンデント・ファイナンシャル・アドバイザーの略で、文字通り、特定の証券会社に属さず、中立の立場で専門的な資産運用・保全の提案を行うアドバイザーです。
 証券会社を退職して独立する方が多く、証券知識も豊富ですが、何より「転勤がない」ことと、「ノルマがない」ことが大きな特徴となっています。

 転勤がないため、お客様と長期的に付き合うことになります。
 ノルマもないため、商品の販売ありきではない提案を行うことができます。
 また、証券会社の社員ではなく上司もいないため、IFAを評価するのはお客様のみになります。

 私自身も証券会社を退社し、IFAとして活動していますが、お客様と雑談だけをして、資産運用の話は一切せずに帰るということがよくあります。

 ノルマもなく、上司もいないため、思う存分お客様とお話しすることができ、自然と信頼関係も強くなります。転勤もなく、長い時間をかけて、セールスマンという枠を超えてお客様と接することで、保有する金融資産のことだけでなく、ご家族のお話もうかがうことになります。
 そしてときには、ご家族の方々とお会いしてお話しさせていただくこともあります。

 家族同士ではなかなか話せなかったり、衝突しがちなお金の話題も、IFAという第三者が入ることで、意外なほど滞りなく進むこともあるのです。

毎年コツコツ贈与するか<br />突然、全額相続するか…<br />そろそろ考えたい資産継承のこと本記事の森本佳奈子さんも登場。IFAに相談したい人、IFAになりたい人の必読書。『証券営業プロフェッショナル 会社のためのセールスから、お客様のためのサービスへ』(ダイヤモンド社)

 IFAは、地域に根を張って活動していることや、担当する顧客数が比較的少数であることもあり、一人ひとりのお客様を大切にし、お客様の資産を切れ目なく次の世代につないでいくことに全力を注いでいます。

 私は徳島県徳島市で開業していますが、あなたのお住まいの地域にも、IFAがいるかもしれません。弊社のように楽天証券と契約している場合は、楽天証券のホームページからお住まいの地域のIFAを探していただくことができます。

 あとになって、あのとき始めていれば…とならないためにも、資産継承のこと、考えてみてはいかがでしょうか。

筆者プロフィール 森本佳奈子(もりもと・かなこ)
株式会社みかたはいる 取締役
平成4年に日興証券に入社し勧角証券(現みずほ証券)を経て株式会社みかたはいるを設立。証券会社時代からFAとして活動していたものの、よりお客様目線でのサービスを提供できるIFAの仕組みに共感する。証券業界での24年間の豊富な経験を活かし、お客様との長期的な信頼関係づくりを目指す。
http://www.mikatahairu.com/