ほとんどの企業が
顧客よりも気にしているもの

 業界の常識とは、多くの場合自分たちはプロで顧客は素人だというモノの見方に基づいている。このため、「顧客には正しい判断ができない」「自分たちがやった方がうまくいく」「自分たちにとってやりやすいのが正しいやり方である」「だから自分たちは高い対価を求める資格がある」「それにもかかわらず、顧客にはそれがわかっていない」などといった欺瞞が入り込みやすい。

 例えば「高い技術力がいい製品を生む」というメーカーの開発者の頭の中には、「製品がいいか悪いかは、メーカーの技術力によって決まるべき」というモノの見方がある。しかし、消費者の側から見れば大きなお世話で、「製品がいいか悪いかは消費者が決めること」となる。「公共性の高いサービスは、顧客に迷惑をかけることになるため、不安定な新規参入者に任せるべきではない」という通信会社・電力会社・郵便局・金融機関は、なぜソフトバンクやヤマト運輸、インターネット生損保などが事業を拡大しているのかを考えてみる必要がある。実際ベゾスは次のように言っている。

「我々は正真正銘、顧客第一です。しかし、ほとんどの企業は違います。顧客ではなく、ライバル企業のことばかり気にしています」

 つまり、自分の縄張りや既得権を脅かすライバルにばかり意識を奪われるうちに、顧客が見えなくなってしまうということだ。ベゾスはそこにチャンスを見出し、「顧客に最善の判断を行う機会を提供する」ことに自社の価値を見出している。その結果、業界関係者が嫌がることをやったり、時として自社にとっても不利なことを実行に移している。

 否定的なレビューもそのまま掲載することで、出版社や作家と揉めることなど日常茶飯事だ。出版社やメーカーに対して購買力を誇示して買いたたいたり、ライバル企業を買収するために価格競争を仕掛けることをためらわない。それが顧客のためになると考えているからだ。

 サードパーティが売る中古書籍を新品と並べて売り、そちらの方が安ければ、顧客にそちらを選択してもらう。その結果、売上が減ることを懸念した出版社協会や、印税が減ることを心配する作家たちから抗議を受けても気にしない。それどころか、自社内で新品を売る部門をも敵に回している。