その他にも、配送料無料や売上税ゼロといったサービスを提供してしまう。まだ中小企業の時代に、突然「シアーズになる」と言い出す。こうした構想を次から次へとぶち上げるので、周囲は右往左往するばかりだ。

 社内の関係者に言わせれば、「まあ、いつものことなのですが、ジェフ対世界という感じでした」ということになる。それでも、顧客の利益を追求することが結果的にアマゾンの発展につながることが後から明らかになっていく。ベゾスは世間の常識が間違っていたことを幾度となく証明してきたのだ。

 ドットコム・バブルが崩壊した頃、リーマン・ブラザースのアナリスト、ラビ・スリアがアマゾンの破滅を予測した。それは、インターネット革命により既得権を脅かされそうになっていた人たちから、福音として歓迎され、一時期は社会全体を敵に回すような様相を呈した。しかし、顧客の利益につながることをやっていれば、必ず世の中から必要とされると考えていたベゾスは、まったく動じるところがなかったという。その結果、最終的にドットコム・バブルの崩壊を生き延び、社会の見方を覆すことに成功した。むしろ、リーマン・ブラザースの方がその後破綻してしまったのは皮肉な話だ。ベゾスはこう言う。

「私は金の亡者ではなく伝道師だ。ただ、何とも皮肉なことに、伝道師の方がお金を儲けてしまう」

強烈に自己主張する人格は
どのように生まれたのか

 ベゾスには、もうひとつスティーブ・ジョブズとの共通点がある。それは養子であることだ。ベゾスの実の父はテッド・ジョーゲンセンという人で、アルバカーキで有数の一輪車乗りといわれたサーカス団員である。高校時代に2学年下のジャッキー・ガイスと付き合い始め、まもなくジェフを授かった。ところが、ジョーゲンセンは酒におぼれるところがあり、やがて二人は離婚。その後ジャッキーは再婚し、ジェフは新しい父親と養子縁組することになった。

 新しい父親の名はミゲル・アンヘル・ベゾスで、キューバ革命のときに米国に亡命してきた人だ。つまり、ジョブズもベゾスも実の親ではない父(ジョブズの場合は母も)を持つことになった。こうした境遇が、「自分とは何か」を強烈に意識させたことは想像に難くない。何となく周りの常識に合わせようとしてしまう普通の人ではなく、強烈な自己主張によって周囲のモノの見方を変えようとする人格はこうして出来上がったと考えられる。

 ベゾスは「我々は“アンストア”である」という言い方をする。ここからは、「小売業」というモノの見方すら疑おうという意思が感じられる。そうした姿勢から新しい世界の見方が生まれ、新しい成功パターンの発見が可能になっていくのだ。