「リスクが怖いから何もしません」が
企業の“常識化”していないか

「アクションするということは、リスクが生じるということです」「従って、アクションしてはいけません」「そのリスクの大きさたるや、あなただけで負えるものではないのです」「ですから、何もやらないことが良いことなのです」――。これは、私が最近、ある企業の部門長から直に聞いた発言だ。読者のみなさんは、トンデモ人事部か、保守的な管理部門の事例だと思ったに違いない。しかしこの発言は、人事部でも管理部門でもない。なんと、営業支援部門の部門長の発言なのである。

バブル入社組は、なぜ「使えない」と言われるのか「リスクが大きいから、広報活動はすべきでない」と広報部長が言うような会社を、あなたはどう思うだろうか?

 思わず耳を疑い、その部門長を二度見してしまったが、それ以来、営業支援部門におけるトンデモ事態に次々と直面するようになってしまった。未だに忘れられない、最も強烈な出来事が、“ABCカタカナジャパン事件”だ。

 外資系日本法人ABC社の正式な社名表記は、アルファベット表記のABC Japanである。あるとき同社が日刊紙の取材を受けて、記事になることになった。日刊紙は、「Japan」は「ジャパン」とカタカナで表記するという編集基準に則り、ABCジャパンと表記した記事を掲載した。これが大事件の発端だ。

ABCジャパン「当社はABCジャパンではない。ABC Japanに訂正してくれ」
日刊紙「Japanはジャパンとカタカナ表記する日刊紙の編集基準だ」
ABC「訂正しないとは、どういうことだ!」
日刊紙「これは広告ではない。純粋な取材記事だ。編集権は当社(日刊紙)にある」
ABC「社名が異なるのだから、これは当社の記事ではない」
日刊紙「そもそも日本人の読者に対して、縦書きの紙面で、アルファベットJapanをどのように表記するというのだ」

 不毛な議論が延々と続いた。そして最後、ABCジャパン広報部長は、こう言い放った。「だから、取材などに応ずるべきではなかったのだよ。広報活動などするべきではないのだ」。

 別の企業の例は、より深刻だ。社長が営業推進部長に、1000万円のコストをかけて、販売促進のための広告を打ちたいと話した。すると営業推進部長は、「前例がありません」「規定上できません」「予算上できません」と否定語3連発で返した。社長はキレて、「私があなたと話したいことは、前例や規定や予算に照らして、できるかできないかということではない!売上を上げる方法だ!広告に代わる方法を言うならばまだわかる。それがないなら、どう広告費用を捻出するかをなぜ考えない!」と叫んだのだが、営業推進部長は、怪訝な表情をするのみであった。