『錬金術師たち』(The Alchemists)。ニール・アーウィン氏が2013年に著したこの本は、中央銀行関係者の間で大きな話題となった。
ベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)前議長、ジャン=クロード・トリシェ欧州中央銀行(ECB)前総裁、マーヴィン・キング・イングランド銀行前総裁が、金融危機後に巨額資金供給でパニックを鎮めた経緯、内幕が描写されていたからだ。
アーウィン氏は、中央銀行は錬金術師のように「無価値なものから価値ある何かを作り出す魔法のプロセス」を持っていると考えた。そういったミラクルなパワーが中央銀行にはあるとイメージしていた人は、当時の株式市場や為替市場にも多かった。
しかし、同書の表紙にも載っていたキング前総裁が今月出版する新著のタイトルは、『錬金術の終わり』(The End of Alchemy)である。時代の変化が感じられる。
実際、今年に入ってから、中央銀行の神通力は落ちてきている。日本銀行は1月29日にマイナス金利政策を導入した。その本音の目的は、円安誘導および株価押し上げにあったと推測されるが、これまでのところうまくいっていない。
しかも、消費者マインドを表す消費者態度指数は2月に大幅に悪化した。おそらく多くの日本国民は、「マイナス金利といわれてもよく分からないが、そんな異常な政策を始めなければならないほど日本経済は悪いのか」と感じて、心配になってしまったのだろう。