1980年代後半に持て囃された「日本的経営システム」は、バブルの崩壊とともに急速に色あせ、近年では話題にすら上らなくなっている。ここで日本的経営システムとは、終身雇用制や系列関係など、長期にわたる継続的な取引関係にもとづく経営の仕組みである。90年代に入ると、不況下で価格志向を強めた消費者ニーズの変化に対応するために、ヒトや部品のアウトソーシングなど、短期的な調整が可能なスポット市場のウェイトが大きくなっている。
財やサービスの市場(販売)動向は重視しなければならないが(売れないものを作っても意味がない)、事業に必要な人的・物的資源(ヒトやモノ)をすべて市場で調達するというのはどうだろうか?
今回は日本的経営システムについて検討し、市場と継続的取引関係をいかにバランス良く併用するかについて考えてみよう。
取引に費用がかからないなら
企業という組織は必要ない
このことを考える取っ掛かりは、企業はなぜ存在するのか、という問題である。この問題に対して、1991年にノーベル賞を受賞したコース(R. H. Coase)は、受賞の対象となった論文の1つである「企業の本質(The Nature of the Firm)」の中で、次のように論じている。
仮に市場での取引に費用がかからないのであれば、企業という(永続性のある階層的な)組織は必要ない。ある日の朝、事業に必要な人的・物的資源を市場で調達し、それを用いて事業を行い、夕方には解散する。これを毎日繰り返せばよいのである。ある日、事業環境が変化し、事業に必要な人的・物的資源が変われば、翌日からそれらを市場で調達すればよい。
逆に言えば、企業という組織が存在するのは、市場での取引に費用がかかるからである。実際、適切な取引相手を探し、彼らと交渉することによって適切な価格を見つけ、取引契約を結んでそれを履行するためには、それなりの費用がかかる。