パワハラ、セクハラ、ソーハラ、マタハラ……。昨今は、これまであまり問題視されてこなかったコミュニケーションにも「ハラスメント」のレッテルが貼られるようになりました。課長は、どうすれば労働問題に巻き込まれずに日々のマネジメントに注力できるのか? 国内企業と外資系企業の人事部でサラリーマン経験がある労働問題解決の第一人者が、事例とともに実践的な「法律の使い方」をお伝えします。
A保険会社上司(損害賠償)事件(東京高裁 平成17年4月20日判決)
Xは勤続30年のベテラン社員。
過去2年の人事考課は7段階で下から2番目。
営業成績は低迷していました。
そこで、Xの上司であるYは、Xに対して次のようなメールを送信します。
「やる気がないなら会社を辞めるべきだと思います。当サービスセンターにとっても、会社にとっても損失そのものです。あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を上げますよ。これ以上、当サービスセンターに迷惑を掛けないでください」
このメールはXだけでなく、Xの同僚数十人にもCcとして送信されました。
Xは、名誉棄損とパワハラに当たるとしてYを提訴。
以下のような趣旨の判断が下されました。
「このメールはXの地位に見合った営業ノルマを達成するよう叱咤激励するものであり、メールを送った目的は正当。しかし、『やる気がないなら会社を辞めるべき』『会社にとって損失そのもの』などの表現はXの名誉感情をいたずらに毀損するものである」
裁判所はパワハラではないとしながらも、不法行為には該当するとして、Yに慰謝料5万円の支払いを命じました――。