肝心なのは「製品開発の仕組み」
日経新聞によると、米高級車市場でトヨタ自動車の「レクサス」がドイツ勢を追い上げているそうだ。2016年1~3月の販売台数でBMWを抜き、前年同期の3位から2位に順位を上げた。1位のメルセデス・ベンツにも3月の販売台数では僅差に迫ったという。
トヨタは米国においても「日本品質」にこだわった生産ラインづくりを行っている。それが高級車市場で功を奏しているようだ。たとえばボディの歪みを現地作業員に手で触って識別させたり、内装の複雑な模様をミシンで縫う従業員には、左手で折り紙の「ねこ」を折らせるなど、厳しい訓練に通った人だけに作業をさせている。これは「人間の判断に勝るものはない」という考え方に基づいているそうだ。
このような話を聞くと、「人の生産性」にも着目して組み上げられた「トヨタ生産方式(TPS: Toyota Production System)」がやはりトヨタの強さの源泉なのだと思うかもしれない。しかし本書の著者である酒井崇男氏は、トヨタの本当の強さは生産方式ではないと主張する。
酒井崇男氏は、1973年愛知県岡崎市生まれ。大手通信会社研究所を経て独立。グローバル・ピープル・ソリューションズを立ち上げ、代表取締役として人事・組織・製品開発戦略のコンサルティングを行っている。またリーン開発・製品開発組織のタレント・マネジメントについて、国内外での講演・指導など、精力的に活動している。著書に『「タレント」の時代』(講談社現代新書)がある。
本書の帯にも「トヨタは生産方式で儲けていない」と書かれている。どんなに優れた生産方式も「売れるモノ」があって初めて意味を持つ。すなわち、売れるモノを作る「製品開発の仕組み」こそがトヨタの強さの秘密であり、それがない単独のトヨタ生産方式には意味がない。
いくら高品質でも売れないモノを作り続けるのは無意味などころか、かえって害になるだろう。多くの日本企業は、肝心な部分を学ばずに、後ろ半分の生産方式だけを取り入れるから失敗するのだと、酒井氏は説明する。
トヨタの製品開発の仕組みを「トヨタ流製品開発(TPD: Toyota Product Development)」という。よく考えてみると、トヨタ生産方式(TPS)についての話はよく耳にするが、TPDという言葉には馴染みがない。いったいどのような方式なのだろうか。