東京に通勤・通学する人口が最も多い最大のベッドタウン県、埼玉。県民はおらが県自慢を全くしないが、本当に魅力はないのか。そして県の観光課が今、考えていることとは?
『翔んで埼玉』という漫画をご存じだろうか。往年のヒット漫画『パタリロ!』の作者、魔夜峰央氏が1980年代に描いた学園漫画だ。
東京のエリート学校を舞台に、埼玉出身の生徒は強烈な差別を受ける。「そこらへんの草でも食わせておけ! 埼玉県民ならそれで治る!」「埼玉なんて言っているだけで口が埼玉になるわ!」といった具合だ。さらに埼玉県に入るには手形が必要で、サイタマラリアという埼玉特有の伝染病まではやる。
「究極の埼玉ディス漫画」とインターネットやメディアで話題となり、30万部を超えて売れに売れている。しかしこの漫画が最も売れているのは、埼玉県内だという。
人口726万人は、東京、神奈川、大阪、愛知に続く5位。人口密度は4位。周囲を東京、千葉、茨城、栃木、群馬、長野、山梨の7都県と接する。市の数は40と日本一で、そのうち22市は人口10万人を超える。
しかしその印象はとても薄い。埼玉県民から、埼玉の名産、埼玉のグルメ、埼玉の名所旧跡など、埼玉自慢を聞いたことがない。埼玉県民に住んでいる市の名前を教わっても、それが埼玉のどの辺りにあるのか見当がつかない。東武○○線、西武○○線と言われてもどこを走っているのか分からない。他県民にとって、埼玉は日本で最も謎な県であるかもしれない。
なぜなら埼玉県民が埼玉について話したがらないからだ。埼玉県観光課の内田浩明氏は、その背景に“愛県心の低さ”を指摘する。
「もともと埼玉には川越藩、岩槻藩、忍(おし)藩など小さい藩が点々とあるだけで、ほとんどが天領でした。江戸から出た堆肥を栄養にして農産物を育て、江戸に農産物を供給する農村地帯。それが東京と埼玉の関係性の根底にあるのではないでしょうか」
川越名産のサツマイモはその代表例だ。つまり埼玉は東京都民の畑のようなもの。それ故東京へのコンプレックスと憧憬が入り交じり、愛県心が育まれにくかった。
さらに「80年代に『ダ埼玉』(名付け親はタモリ)と言われた恥ずかしさを引きずっているのかもしれません」と内田氏。
出張先で「どちらから?」と聞かれてつい「東京の近く」と答えてしまうのは、埼玉県人あるあるだとか。ブランド総合研究所の調査では、県民の「愛着度」ランキングは47位と最下位である(表「郷土愛ランキング」参照)。