「社会貢献」という表層部だけで説明を行なうと、株主役を演じる他のグループの学生から、鋭い突っ込みが入ります。しかし次第に、バングラデシュの生産拠点としてのポテンシャルや、国内マーケットの展望、政治情勢等々、議論は徐々にビジネスの本質へと向かい、やがて「撤退せず続けて行くことが、社会貢献に繋がる」、「そのためには、ビジネスとして成功しなければならない」、「企業の社会貢献は、始めることよりも続けて行くことが重要」などの本質的な議論に収れんしていきました。

 つまり、思考停止せず議論を掘り下げていった結果、学生は、ビジネス思考で社会貢献事業を語ることができたのです。

過去を「語り継ぐこと」で
未来を切り拓く

 終戦記念日の8月15日に東京武道館で行なわれた全国戦没者追悼式には、全国各地から約5400人の遺族が参列しましたが、年々参列者の高齢化が進んでいるといいます。戦後65年という時の経過を考えれば、致し方ないことです。だからこそ、戦争の記憶を風化させないためにも、戦争体験者の貴重な証言を後世へと語り継ぐ必要があるのです。

 こうした記憶の風化は、日本経済においても同じです。失われた20年が、30年、40年ともなれば、「かつて経済大国であった」という成功体験はますます風化し、日本経済の再生は時の経過とともに難しくなることでしょう。

 また、環境問題についても同様です。私がいま、環境ビジネスを支援しているのは、「環境が大事だから」という倫理的なことが第一義にあるわけではありません。資源を持たざる日本が、国際競争力を保つことができたのは、資源的制約を克服し、環境技術を発展させてきたことも大きな要因です。だからこそ、環境の世紀といわれる21世紀には、日本の環境技術における過去の成功体験を大いに生かすことができる、と考えたからなのです。

 私たち「バブル世代」は、経済大国日本の恩恵を受け育ってきましたが、自らの世代が高度経済成長を支えてきたわけではありません。高度経済成長を支えてきたのは、「団塊世代」の人々です。ぜひ、団塊世代の方には、次世代を担う若者たちに対し、「日本は経済大国であった」ということや、「資源を持たざる国という制約条件を克服し、環境技術を培ってきた」という成功体験を語り継いでいただきたいのです。

 過去の延長線上に単純な未来があるわけではありませんが、「どうせ」と思考停止してあきらめないためにも、また、経済という現実としっかり向き合うためにも、過去の成功体験を「語り継ぐ」ことには大きな意味があります。

 前期ゼミの最終レポートの中で、「日本もまだ、捨てたもんじゃないな」という感想がありました。私自身、こうした学生を増やしていくことも、自らの役割だと考えています。われわれ以上の世代に求められるのは、過去の日本経済の成功体験を、次代を担う若者に「語り継ぎ」、失いつつある自信と誇りを取り戻し、未来に希望を持てるよう促すことだと思うのです。

【参考資料】
AIICクリエイティブラボ(立教グラミン・クリエイティブラボ)