課題解決の第一歩は「人の話を聞け」

 少し具体的に課題へのアドバイスの話をしよう。

「海外事業がうまく行っていない」、「海外進出先で高給で経営者を採用したが思ったように働いてくれない」という悩みを比較的よく聞く。これについては、根本的な誤解があるようなので、2つのことをお勧めしている。

 まず、海外の社員や経営者をどのように「わが社の人」として扱っているか。例えば、アメリカへの進出が重要というのであれば、そこでの経営者を誰にするかは当然大変重要な事項で、アメリカ市場で「わが社」を代表してもらわなくてはならないので、「わが社」の理解も共感も必要。従って、日本に呼んで3日間ほどは合宿状態で、わが社の概要、何を達成したい会社なのか、米国市場進出の決意、今後の進め方を徹底的に議論をするぐらいのことはすべきだ。

 彼らの意見を積極的に聞く一方で、日本経営の良さや会社の歴史、アイデンティティーは何かを議論し共有するのが目的だ。また、今後一緒に働いてもらうことになる本社経営陣やスタッフとの顔合わせもしっかりと行い、チームの一員となってもらうことだ。なぜか、こういうことは欧米人には必要ないと思っている人が多い。

 このようなプロセスで、高給だけに惹かれて来るような人は排除し、働いている会社の事業や歴史、アイデンティティーに共感してもらい、「よく分かった。こういう会社で働き続けたいものだ」と言わしめ、「ただし、今のやり方ではうちの国では売れないよ」という議論に発展できればしめたものである。

 こういう関係に持ち込むためにも、「現地社員」、「ナショナル・スタッフ」といった差別的待遇を止めて、世界中どこで入社しても「わが社の社員」という人事体制を作るべきである。どんなに頑張って事業を伸ばしても、正しい方法で収益を大幅に増やしても、本社の経営に関わることができない会社は、世界の優秀な人材を採用することはまずできない。

 次に「会社や組織の中のコミュニケーション」「仕事の改善のアイデアをどこから得るのか」という課題も実によく出てくる。

 私は、「会社のなかの縦のコミュニケーション」、しかも、管理職をスキップした若手あるいは経験年数の少ない社員と、社長を含む経営陣とのラウンドテーブルを薦めている。例えば、私たちの会社では、「安全地帯ルール」によるラウンドテーブルでの話し合いの機会を設けている。そこでは何を話してもよく、話したことは一切本人の不利益にはならない。誰が何を話したかも外には出ない。良いアイデアがあれば、アイデアだけが披露される。

 お分かりになると思うが、こういう会議は最初はまったく信用されない。「不利益にならない、と言いながら実は上司に話が回り、裏で評価されるのではないか」。社員、特に若手社員がそう考えるのは当然だ。

 しかししつこく、しつこく繰り返す。良い案が出ればすぐに実行する。そうすると一種のティッピングポイントを迎え、そこから俄然、安全地帯ルールが効用を発揮し始め、どんどん意見が出始める。

 さらに、「どこから新しいアイデアを得るのか」、「今の技術や社会のトレンドを経営者としてどのように把握するのか」という経営者の課題もよく聞かれる。

 これは、まず、自分よりも若いメンターから学ぶことだ。トップだけでなく40代から50代のマネジメント層には大切な「取り組み」だ。自分と10歳、20歳、30歳違う世代が何を考えているのか、どう仕事に取り組んでいるのか、何を新しいと思っているのか、何が古くて不要だと思っているのか、定期的に聞くだけで新しい世界が広がってくる。

 ここでのポイントは、どれだけシニア層が本当に学びたいと思っているか、上から目線ではなく、強い知的好奇心で接することができるか、不要な昔話や自慢話をせずに若手の話を聞けるか、である。

 若い人の最大の特性は、変化に敏感であることだ。変化を肌で感じられると言ってもいい。だからこそ今の時代には、「この人はどうやって食べているのだろう」と思うような社会起業家もいれば、確かな学びを財産に独立起業を志向する人もいる。そうした若い人たちと、肩書きを外して議論すれば、現代社会が直面している本当の課題が見えてくるし、そこから仕事の未来へのヒントも得られるのだ。

 部下には「しっかり本を読んで勉強しなさい」と叱咤する部長。しかし部下たちは、「部長が本を読んでいるのを見たことがないよな」と評価している。だからこそ「最近、こんな本を読んだのだけど君たちはどう評価する」と差し出せば、「あっ、勉強しているんだ」と一つの信頼が芽生える。

 そうしないと若い人は付いてこないし、彼らの感性を変化力として活かすこともできない。