なかなか縮まらない貧富の差
IT大国インドが抱える課題とは?

 IT部門で華々しい成功者を数多く生み出しているインドだが、平均的な教育レベルはけっして高くない。識字率もいまだ7割程度にとどまっているのが現実だ。同じBRICsの一角である中国の識字率が95%を越えていることを考えれば、これはかなりの低水準と言わざるを得ない。

「インドは国家を挙げて初等教育に力を注いでいますが、全体的な学力向上には繋がっていません。小学校では『5年生までに3割が退学する』と言われているほどです。インドで第2次産業が振興しづらい原因のひとつです」(伊藤氏)

 例えば工場勤務を考えた場合、簡単な作業を指示する場合でも『これに触るな』という注意書きすら読めないようでは、高品質な製品の生産は望むべくもない。3割もの国民が製造業に従事できない人材であれば、第2次産業は停滞を余儀なくされる。いかにITがカーストを越えられると言えようとも、被差別階層であるダリットは、教育の機会から遠ざけられているケースもまだ多いのだ。

「IT大国」と呼ばれるようになった現在でも、インドにおける貧富の格差が一向に縮まらないのはこのような理由による。しかし、平均年齢27歳の“若い国”インドで、若年層の雇用を拡大するためには、製造業の振興は喫緊の課題だ。

 事態を打開すべく、一昨年に就任したナレンドラ・モディ首相は、経済政策『メイク・イン・インディア』を提唱し、2025年までに製造業の割合を25%~30%まで引き上げ、1億人の雇用を創出すると公約した。

 当然、技術・資金力があり、スズキ・マルチ・インディアがすでに圧倒的なシェアを獲得している日本にも視線は注がれている。事実、15年の来日の際、モディ首相は安倍首相から、進出企業数を今後5年以内に倍増させ、官民合わせて3.5兆円の投融資を行うとの約束を取り付けることに成功している。

 インド初となる高速鉄道プロジェクトでは、新幹線方式を採用することが決定した。また、敬虔なヒンズー教徒であるモディ首相は、聖地バラナシ再開発のモデルシティとして京都を筆頭に挙げたとも伝えられている。さらに、不動産部門では住友商事が2000億円規模のマンション開発に乗り出した。無印良品を運営する良品計画は16年、日本の小売業としては初となる店舗をムンバイとベンガルールに出店する。

 22年に世界最大の人口国になると予想されるインドに、少子化が進むわが国では得がたいビジネスチャンスを見いだす日本企業が急増しているのだ。

「それでも、まだまだ課題は山積みです。インドでは、工場のライン作業に従事する場合でも、カーストの違う人間が同じラインに立つことすら軋轢の原因となることがあり得るのです。インドは間違いなく軽視できない国ですが、日本人はインドに対し、“キープ・ウォッチング、キープ・インボルブ(つかず離れず)”という姿勢で臨むことが重要かもしれません」(伊藤氏)

 根強い差別に悩みながらも、世界経済の牽引役として、インドは着実にそのプレゼンスを高めつつある。日本企業は、複雑な事情に鑑みながら着実に歩を進めていく必要があるだろう。