兄弟・姉妹をこころから「公平」に扱う
ムーギー 佐藤さんの天性の明るさは、ご両親の愛情に包まれた幼少期がルーツなのでしょう。では、ご両親の教育で「これはイヤだった」はありますか?
佐藤 それが、ひとつだけあるんです。私は5つ下に弟がいるのですが、私が8歳のとき、母が小さなプラスチック容器に入った乳酸飲料を1つだけもらってきたんですね。母はそれを、迷うことなく3歳の弟にあげてしまって。
ムーギー いや、3歳にあげますよ、それは。そんなに乳酸飲料が飲みたかったんですか(笑)。
佐藤 物欲しそうな私に気づいた弟も「ほしいんだ〜」とからかってきて、カチンとした。それを、いまだに覚えているんですよ。だから私は、たとえ子どもの年が何歳離れていようとも、とくに食べものは平等にしようと心に決めたんです。「お兄ちゃんだから余分に2つ」なんてあり得ないし、果物をいくつか切るときも当たり外れがないように平等に分ける。それで小さい子が食べきれなかった分は、上の子たちが平等に分けます。
ムーギー 食べ物の公平な分配を、徹底したんですね。じつは、本書の著者であり私の母親であるミセス・パンプキンも先日同じことを言っていました。「食べもののことは恨みになって残るから」と。関西のオバちゃんならではの共通点……といったら失礼でしょうが(笑)。
佐藤 そうかもしれません(笑)。でも、年上だから我慢する、年下だから我慢するって理不尽じゃないですか。だから、兄弟間でヒエラルキーをつけないよう、私も上の子を「お兄ちゃん」とは呼ばないし、子どもたち同士も名前で呼ばせました。
1977年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA(経営学修士)取得。大学卒業後、外資系金融機関の投資銀行部門にて、日本企業の上場および資金調達に従事。その後、世界で最も長い歴史を誇る大手グローバル・コンサルティングファームにて企業の戦略立案を担当し、韓国・欧州・北欧・米国ほか、多くの国際的なコンサルティングプロジェクトに参画。2005年より世界最大級の外資系資産運用会社にてバイサイドアナリストとして株式調査業務を担当したのち、香港に移住してプライベートエクイティファンドへの投資業務に転身。フランス、シンガポール、上海での留学後は、大手プライベート エクイティファンドで勤務。英語・中国語・韓国語・日本語を操る。グローバル金融・教育・キャリアに関する多様な講演・執筆活動でも活躍し、東洋経済オンラインでの連載「グローバルエリートは見た!」は年間3000万PVを集める大人気コラムに。著書にベストセラー『世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた』(東洋経済新報社)がある。
ムーギー 普通は「仲良くしなさい」という言葉のもと、理不尽を押しつけてしまいがちです。でも、それだと不満が溜まって、結果的に仲が悪くなってしまうと佐藤さんは考えられた。ちなみに、お子さんたちは仲がいいんですか?
佐藤 ええ、いまは東京で3人暮らしを楽しんでいますよ。もうひとつ、名前を呼ぶのには「個人を大切にする」という意味があるのですが、これにも私の原体験があります。大学3年生のときにアメリカでホームステイしたのですが、向こうでは夫婦同士でも「お父さん」「お母さん」ではなく名前で呼ぶし、長子にも「お兄ちゃん」ではなく名前を呼ぶんですよね。日本で生まれ育った私には、一人ひとりの「名前」を大切にすることが一人ひとりの「存在」を大事にしていることとイコールに思えて、素直に「いいな」と思いました。
ムーギー うんうん、なるほど。
佐藤 さらに、私のホームステイした家では、朝食で「卵の食べ方、どうする?」とお母さんが聞くと、「僕はスクランブルエッグ」「私は目玉焼き」って一人ひとりリクエストしていくんです。ほんの些細なことですけど、アメリカではこうやって個性や一人ひとりの選択を大事にするんだなと、はっとしました。「みんな同じでいいじゃない」とは言わないんだと。
ムーギー ああ、いまわかった。佐藤さんの強みは「教育における主体性」ですね。「教育のアントレプレナーシップ」と言い換えられるかもしれない。佐藤さんは、ご自身の経験から自分なりの教訓を得て、自分が「いい」と思ったやり方を試す、主体性をお持ちなんだと思います。塾の選び方も、兄弟間の接し方も、勉強のやり方も、他人の既存のやり方を真似せず、佐藤さんがリーダーシップを持って考えて決めた。だからこそ、ブレずにやりきることができたのでしょう。