例えば、年金がベーシックインカムに置き換わると、年金に関連する役所や役所の外郭団体の人員は、大いに削減可能だ。しかし、そこで不要とされた人が、潔く引退して、ベーシックインカムをもらうことで満足する、というようなことは考えにくい。権限やOBの就職先が減ることに対して、直接・間接両方の方法で陰に陽に抵抗するだろう。 このときの抵抗する側の真剣さと、そもそも日本の社会システムの枢要な部分が政治家やビジネスマンによってではなく、官僚によって動かされていることを思うと、ベーシックインカムが短期間で実現に向けて動き出すとは想像しにくい。

 そのためには、現行の社会保障関連の仕組みと行政システムを徐々に簡素化して、少しずつ「ベーシックインカム的」な仕組みや仕事のやり方を増やしていく方法がいいのではないだろうか。

 ベーシックインカム的とは、(1)行政の裁量ではなくルールに基づいて給付が決まる、(2)基本的に使途が自由な給付金による再分配、(3)制度として簡素・効率的になる、制度の導入または制度変更を指すことにしよう。

 当面期待できるのは、マイナンバーを活用した給付付き税額控除(いわゆる「負の所得税」)だ。この制度は、税率をフラットにして、所得捕捉が完璧であれば、ベーシックインカムとの「類似度」は大変高く、「実質的に同じ」と評価してもいい仕組みだ。

 同時に、生活保護などの制度の簡素化を進め、給付開始年齢の引き上げなどによる公的年金の縮小を組み合わせると、ベーシックインカム的な世界に徐々に近づいていく。

 行政の権限も人員も、減らす方向の変化は容易ではないように思われるが、外国でベーシックインカムへの関心が高まる中、日本にも「ベーシックインカム的価値観」の浸透を期待したい。