今年3月に国土交通省が発表した公示地価の全国平均が8年ぶりにプラスになるなど、大都市圏を中心に不動産価格が上昇している日本。2020年の東京五輪に向けての期待も広がるが、外国人投資家は現状をどのように見ているのか、CBREアジア太平洋地域リサーチヘッドのヘンリー・チン氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)
東京五輪、アベノミクス…
外国人投資家から見た日本の現状
――ここのところの株安で、日本国内ではアベノミクスへの失望感が広がっています。それでも、2020年開催の東京オリンピックまでは不動産価格は上がるのではないかと楽観的に考える日本人は多い。外国人投資家たちは、この現状をどのように見ているのでしょうか?
アベノミクスへの期待感は、外国人投資家も意見が半々に分かれるといったところでしょうか。安倍首相が打ち出した「3本の矢」の1本目(大胆な金融政策)と2本目(機動的な財政政策)は、円安・株高、そして企業利益の拡大をもたらし、そこそこうまく行きました。しかし3本目の「民間投資を喚起する成長戦略」は構造改革を伴うもので、すぐに結果が出る性質の戦略ではありません。中長期で効果を見て行かなければならないと思います。
国立台北大学卒業、英国レディング大学不動産修士課程、英国オックスフォード・ブルックス大学不動産投資博士課程修了。ドイツ銀行グループ、プラメリカ不動産投資などを経て2014年より米国不動産サービス大手・CBREでアジア太平洋地域のリサーチ業務に携わる。Photo by Kazutoshinbsp;Sumitomo
確かに、外国人投資家たちもアベノミクス初期の頃に持っていた高揚感は下がってきていますが、さりとて「大失敗だ」との声もさほど大きくない。全体的に様子見ムードが感じられます。
――消費増税の先送りは失望につながらなかったのでしょうか?
確かに消費増税は構造改革につながると思います。しかし、タイミングとして今がベストだとは思えない。世界経済が思わしい状態ではないからです。ですから私自身は、2年半の先送りは正しい判断だと思っています。
ただ、東京オリンピックがそのまま、不動産価格上昇への期待につながっているという点については、私は少し違う意見を持っています。オリンピック開催が景気浮上、そして不動産価格上昇にダイレクトにつながるのは発展途上国です。一方、先進国に関しては過去のオリンピック開催国を分析すると明白なのですが、実はあまり不動産価格上昇とは関係ありません。
近年の例で見ても、北京(08年開催)はオリンピック効果がありましたが、ロンドン(12年開催)は、ほぼ関係なかったと言っていい。
ただし、オリンピックをきっかけに古いインフラが刷新されたり、国のブランド力を上げるさまざまな施策がセットで行われることによって、恒常的に訪日外国人を増やす流れにつなげていけるのなら、話は別です。つまり、オリンピック開催それ自体で不動産価格上昇は見込めないけれど、これを1つのきっかけに、インフラ整備や街作りに力を入れて行けば、不動産のバリューアップにつながるのです。