

とはいえ、既存の大企業が新規事業を急成長させようとしても無理があるでしょう。例えば、売上高1兆円の会社が1年で10%(=1000億円)売り上げを伸ばさないといけない場合、社内ベンチャーではとても間に合わないからです。当然、人材も時間も限られるため、既存事業の拡大で売り上げを伸ばそうとします。これは日本企業だけでなく、米国の企業も同じです。
しかし、中長期戦略を立てて、高い成長が見込める分野を取り込んでいかなければ将来立ち行かなくなります。よく考えてみてください、フェイスブックもウーバーも10年前にはなかった会社だということを。それがここまで成長したのはなぜかということを。
米国には「コーンシードを全部食べてはいけない」ということわざがあります。トウモロコシの種は来年春に植えるために一部をとっておかなくてはいけないという意味です。この教訓が示すように、将来に備えて先行投資しなければ、イノベーションは決して生まれないのです。
ここまで、日本企業にがんばってほしいという思いを込め、少々批判めいた話をしてきましたが、最後にもう1つだけ付け加えておきます。それは、日本企業にはまだ“デジタルネイティブ”ではない経営陣が多いというハンディがあることです。
いまトップやリーダーになっている世代の多くは、子供の頃からコンピュータに親しんでいないため、ITのよさを実感として理解していないと思います。その結果、ITへの関心も薄い人が多い。そんな人が上に立っているのですから、ICT活用が遅れるのは当然ですね。
このICT導入の遅れは、日本の労働生産性が他の先進国に比べて極めて低いことの原因の1つにもなっているといえるでしょう。以前も紹介しましたが、OECD(経済協力開発機構)の調査によると、各国の労働生産性で、先進国中、日本は最下位です。日本生産性本部による「日本の生産性の動向2015年版」を見ても、日本の労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)はOECD加盟34ヵ国中21位、主要先進7ヵ国では最も低い水準となっています。
ただ、ノン・デジタルネイティブ世代の経営陣も現役を退く時期がそろそろ近づいています。デジタルネイティブに世代交代するタイミングは、日本企業が一皮むける絶好のチャンス。ICTの活用も加速するかもしれません。そのときはぜひ、イノベーションを生み出すための中長期投資にも力を注いでほしいですね。
(構成/河合起季)