我が国では、駅売りの新聞、雑誌・書籍、さらにはアパレルなど、さまざまな商品分野で返品制が採用されている。この制度のもとでは、欠陥商品のみならず、売れ残った商品は小売業者から生産者へと返品される。
なぜ、このような返品が行われるのか? 売れ残り在庫に喘ぐ小売業者を救済するために、生産者が返品を受け入れるという説明もあるが、このような優しい生産者は資本主義経済では生き残れないであろう。返品制もまた、生産者の利潤を最大にするために用いられているのである。今回は、この点について説明する。
返品制度で小売業者が
積極的に注文を出す理由
新聞や週刊誌は、商品(記事の内容)の陳腐化が早いため、(販売開始後)需要の状態が明らかになってから、追加的に印刷しても間に合わない。また、ファッション性の高いアパレルなどの商品は、冬に水着(夏物)のファッションショー、夏に毛皮(冬物)のファッションショーが開催されることからも分かるように、生産のリードタイムが長い。これらの理由から、この種の財については、(販売前の)需要が不確実な時点で生産量を決める必要がある。
需要が不確実な場合、多くの財を生産すれば、売れ残るか、低価格での販売を余儀なくされる(逆に生産量が少なければ、在庫がないために販売できないこともある)。このような販売リスクを小売業者のみが負担することは、必ずしも効率的ではない。返品制は、販売リスクの小売業者から生産者への移転を可能にするのである。
これと代替的な取引様式である「買い取り制」のもとでは、需要が不確実な時点で、小売業者が出した注文量を所与として、実現した需要の状態に応じて需給均衡価格が決まる。この場合には、需要の状態が悪ければ売れ残りが生じるし、それを避けようとすれば、仕入価格を下回る小売価格で売らざるを得ない。このような販売リスクに直面する小売業者は、注文量を少なめに設定しようとするだろう。