「客に聞かれてもサイズを教えるな」
スタッフに仰天指導をするアパレルが増加

 東京のショップである日、米国ブランドのポロシャツが気に入った。サイズを確かめたら、5号とある。サイズの見当がつかなかったので、客数に比べて豊富にいるように思えた店舗スタッフに、「私にこのサイズは合いますか?」と聞いたら、それには答えてくれず「どうぞ、試着なさってください」と言う。

 試着までしなくてもと思い、「5号って、どういう大きさですか」と聞いたら、「同じ5号でも、ブランドによって大きさが違いますから、なんとも(言えません)…」と、歯切れの悪い返事がかえってくるばかりだ。

後で言質を取られないように、質問には極力答えない!冗談のような社員指導を行う企業が増えている

 私の聞き方が分かりにくかったのか。そう思い直し、さらに分かりやすく問うてみた。

「5号って、日本表記でいうとMですか?それともLですか?あるいは、身長何センチ用ですか?タグを見たのですが、どこにも書いていないようなので」と聞くと、「少々お待ちください」と言ってどこかへ行ったきり、いつまでたっても帰ってこなかった。別のスタッフに「海外と日本のサイズ表記の適合表のようなものは、ありませんか?」と聞くと、そういうものは置いていないと言う。

 このように、自分に合うサイズを聞いても答えてくれないことが、3店舗で続いた。内心、業を煮やして、しかし、やんわりと理由を聞いてみると、驚くべき答えが返ってきた。「お客さまにはサイズの提案をしないように指導を受けているのです」と言うのだ。

「外国のサイズ表記はさまざまですし、同じサイズ表記でもブランドによって実際のサイズは、かなり異なります。良かれと思ってお勧めしても、購入して着用してみるとサイズが合わず、返品や苦情になることが多いのです。ですから、サイズについての質問には後々、苦情や返品を受けた際に、『スタッフにこう言われた』『こう勧められた』という言質を取られないように、『試着してください』ということだけ返答するように、研修で指導されているのです」という意味の答えが返ってきた。

 読者のみなさんは、このやりとりをどのように感じるだろうか。「確かに外国のサイズやサイズ表記はまちまちだから、店員さんの対応は無理もない」という声もあるだろう。「いまどき、スタッフに聞く方がどうかしている。ネットで調べればよい」という反応もあるに違いない。

 しかし私には、店舗の販売スタッフが果たすべき役割を発揮していない、いわば責任放棄にしか思えないのだ。そして、この責任放棄マインドが、本社の人事部でもバックオフィスでもない、顧客との接点である第一線の店舗の、それも販売スタッフに蔓延していることは、非常に深刻な事態だと考えている。