制約条件を外す「挑発的思考」4つの質問
メフメト2世は金角湾に侵入するため、ある種の制約条件を飛び越えてみせたのですが、このような発想を容易に生み出すことは可能でしょうか。書籍『発想を事業化するイノベーション・ツールキット』は、思考を妨げる障害を打破するための「挑発的思考(Provocative Thinking)」という概念を紹介しています。この思考法は、現在の制約条件に4つの仮定を付け加えることで飛躍を引き出します。
個人宅向けに大型プールの設計・建設を行なう仮想企業の事例で考えてみましょう。画期的な方法を発見するため「個人宅用プールを設置するには、広い野外エリアが必要である」という今の現実を表現するフレーズを設定して、次の4つの仮定を行ない、発想を飛躍させてみるのです。
●「否定」……今の現実を否定するステートメントで対抗する
個人宅用プールには、広い屋外スペースが必要ではない
●「逆転」……今の現実ステートメントの条件を逆にする
広い屋外スペースには、個人宅用プールが必要である
●「誇張」……今の現実ステートメントを極端な状態まで持っていく
個人宅用プールは、バスタブほどのスペースしか必要としない
●「夢」……もし○○だったら今の現実はどう違ったものになるか
アメリカのすべての家に個人用プールがあれば?
仮定に沿って発想をすることで、大きなプールと同じ機能を備えた小さなプールを開発する、水が入った泳ぐためのチューブを作る、プールに冬にはスケートリンクに転換できるキットをつける、屋上プールを設計するなどの答えが浮かびます。制約条件を飛び越えるため、4つの仮定は思考を挑発するきっかけになるのです。
近年話題の電動スクーターは、充電時間が利用者拡大の妨げの一つと言われています。台湾のHTC社は、2015年の夏にこの制約条件を飛躍する製品を発表しました。スマートスクーターと呼ばれる製品は、バッテリーを2基搭載しており、弱ったら一基を都市に設置されたステーションで丸ごと交換、すぐ走り始めることができるのです。
試作モデルなら自動車でも制約条件を飛び越える製品がすでに発表されています。米フォード社は、2014年に屋根全体を太陽光発電パネルで覆ったハイブリッド車を披露しており、1日30キロ前後の使用なら、充電ステーションに接続しなくとも、太陽光からの充電で十分に機能が活用できる製品となっています。
技術知識のある専門家しか使えない、という制約条件を外した製品が過去大ヒットをしていることは皆さんもご存知でしょう。家庭用ビデオカメラやパソコンのマウスとポインターなどは、「専門知識と技術は必要ではない」という挑発思考とも言えるのです。
オスマン帝国のメフメト2世は「湾内に侵入するのに、金角湾の海上防衛線を突破する必要はない」という、否定形の挑発思考をしたのではないでしょうか。日常の思考から制約条件を飛び越えるのは難しく、メフメト2世がギリシャ・ローマの英雄伝を熟読したように、飛躍を誘う思考の型に親しむことが勝利を呼び込むのです。