経営×統計学

もう、ほっ統計(とけ)ない!──統計的思考を鍛える 俗説バスター統山計子

実は勝ちやすい
じゃんけんの手は?

 中華料理店を出ると思わぬ伏兵がいた。先ほどの自転車の少年が不良仲間を連れて待っていたのだ。駐車場に止めた車で統山家が中にいると目星を付けたのだろう。2人とも“悪そうなやつはだいたい友達”といったいでたちだ。

 「おいお前、さっき、俺にバカとか言ってなかったか?」と圭のほうに近寄って胸ぐらをつかもうとした。その瞬間、計子がさっとその間に割り込んだ。

 「じゃんけんよ!」と突然、提案する計子。「はあ?」と少年は怪訝(けげん)な顔だが、「じゃんけんで勝負よ。それであんたが勝ったら、弟を殴っていいわ。でも負けたら文句なしで、とっとと消える。これでどう?」と言うと、「へへ、面白いじゃんか。いいよ」と応じる。

 「姉ちゃん、勝手に決めるなよ」と圭が悲鳴を上げるのと同時に計子は「せーの、じゃんけん……」と振りかぶっていた。「ポン!」。そして、勝ったのはパーを出した計子。

 「ち、ちくしょう……」。納得がいかない少年は、突然、圭に殴りかかってきた。再び、間に入った計子は1発、2発と、少年の攻撃を見事にかわす。

 シュッ!

 回し蹴りを繰り出した計子のハイヒールが、少年の目の前でぴたりと止まった。「ひっ」と怖(お)じ気づく少年に計子はとどめを刺す。

 「少年犯罪全体での再犯率は31.5%。でも、傷害・暴行や恐喝の再犯率は50~60%と高いわ。あなたはここで道を踏みはずす? それとも……」

 「わ、わかったよ……」。少年2人は脱兎のごとく走り去った。

 「姉ちゃん、強い!」「まあね。おばあちゃんに、子供のころから武道の手ほどきを受けているからね」「違うよ、じゃんけんだよ!」「ああ、そっちね」

 実は、数学者の芳沢光雄氏が1万1567回のじゃんけんを分析した結果、グーが出る確率は35.0%、パーが出る確率は33.0%、チョキが出る確率は、31.7%だったという。手の構造上、グーは出しやすく、さらに緊張していると握り締める傾向があるからだという。つまり、パーが最も勝つ確率が高いのである。

 「え、でも2%しか違わないじゃん! 殴られてたかもしれないのは、俺だよ!」

 「さて、どこに行こうかしら。数字の海は広大だわ」

 「なに、決めぜりふでかっこつけてんの。あ、姉ちゃん、スカート破れてるよ!」

 「ぎゃあー!! 恥ずかしい」

参考文献、サイト(本文に書名が登場したものは除く)

『雇用の常識 決着版「本当に見えるウソ」』
海老原嗣生/ちくま文庫

『不透明な時代を見抜く「統計思考力」
小泉改革は格差を拡大したのか?』

神永正博/ディスカヴァー・トゥエンティワン

『本当は嘘つきな統計数字』
門倉貴史/幻冬舎新書

『犯罪不安社会 誰もが「不審者」?』
浜井浩一、芹沢一也/光文社新書

警視庁、総務省、厚生労働省、法務省などのインターネットサイト
 
Illustration by Gri Suzuki

 

(記事転載元:『週刊ダイヤモンド』2013年3月30日号特集「最強の武器 統計学」P40~45/編集スタッフ:清水量介、鈴木崇久、深澤 献、藤田章夫)

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週刊ダイヤモンド編集部


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