スーツ 消滅と混沌#1写真提供:ワークマン

“スーツ離れ”という言葉が登場したにもかかわらず、ZOZOがオーダースーツに参入したり、最近ではワークマンまでスーツを売り出したりするなど、むしろ“スーツ”に擦り寄る企業が増えている。特集『スーツ 消滅と混沌』(全8回)の#1では、衰退しつつあるスーツに、なぜいま“異端児”が参入するのかを追った。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)

スーツ上下4800円の衝撃
ワークマンの年間100万着販売宣言に業界激震

「さすがに一緒にしないでほしいですよ。あれ、作業着じゃないですか」――。大手百貨店で紳士服売り場を担当するある幹部は、困惑気味にそうつぶやいた。

「あれ」とは、ワークマンが発売した「スーツ」のことだ。

 ワークマンは2021年2月に「SOLOTEX使用リバーシブルワークスーツ」を、3月に「DotAir使用リバーシブルワークスーツ」を市場に投入した。スーツでありながら、いずれも上下合わせて4800円(税込み)という安さと機能性で話題となり、生産した計15万着はほぼ完売。新製品として上々のデビューを飾った。

 この秋冬には帝人フロンティアの看板素材であるSOLOTEXを使用したジャケット、パンツ、ビジネスコートを投入。その他ビジネス電熱ヒーター付きジャケットなども合わせ、年間100万着の生産体制で、ワークマンはスーツ市場に殴り込みをかける。

「実はスーツ作りには反対していた。ワークマンの本筋から外れるから。初回15万着も多いと思った」と打ち明けるのは、ワークマンの土屋哲雄専務だ。

 とはいえ、土屋氏もワークマンプラスという一般客向け店舗で女性客が増えた結果、男性にも手に取りやすいジャケットの販売は必要だという意識は持っていた。また、工場に勤める事務職の人が、ワークマンでパンツを買うようになり、単体で年間数百万本売れる商品が出てきたことも追い風になった。

ポケットだらけ、襟元に帽子…
ワークジャケット、パンツを「スーツ」と名付けた理由

 ただし冒頭のように、スーツ業界に長くいる人間ほどこの商品への抵抗感は強い。スーツと名乗りながらも、製品そのものは作業服に近いからだ。ポケットの数も多く、スーツとうたいつつ帽子が付属している点など、本来のスーツならば”あり得ない“デザインである。

 アパレル関係者のスーツの定義はさまざまだが、ざっくりと言えば、上下セットで販売され、芯地が入った立体的な作りのものを指す。ラペル(ジャケットの下襟部分)が胸に沿い、肩パッドなどが入った立体的な作りで、素材はウールが王道だ。その定義に従えば、ワークマンのスーツは“紛い物”だ。