「国際的な金融協調は崩壊した。米国は、自分たちの政策が世界の他の地域に及ぼす影響を心配すべきだ」

 ラジャン・インド中銀総裁(元IMFチーフエコノミスト、シカゴ大学教授)は、1月下旬にFRB批判を爆発させた。FRBは非伝統的政策を打ってきたが、それが先進国間の緩和競争、通貨安誘導競争を招き、エマージング市場を翻弄してきた。これだけマネーがグローバルに流れながら、先進国の中央銀行が国内のことしか考えていないことを彼は非難した。

 過去にもFRBの政策が数年のラグを置いて新興国を混乱させたことは何度かあった。ボルカー元議長の量的引き締めはメキシコなど中南米の債務危機を招いた。1990年代半ばのグリーンスパン元議長の大幅な金利引き上げはアジア通貨危機への序章となった。ドルの金利が大きく上昇すると、ドルに自国通貨をペッグしてきた国や、ドル建て債券を発行してきた国は苦しくなりやすい。

 しかしながら、今回の場合は様子が異なっている。ドル金利の本格的な上昇がトリガーとなって新興国市場に波乱が起き得るのは、本来はFRBがゼロ金利解除を開始してからのことだろう。現時点のFRBはアクセルペダルを踏む力を徐々に弱めているだけで、ブレーキはまだ踏んでいない。

 それでも今回、こんなにも早く新興国に激しい動揺が発生した主因は、バーナンキ・イエレン体制が推し進めた過度の「透明性向上」にあったと考えられる。中央銀行が明瞭に方向性を指し示すようになると、投資家間の競争とは、その方向にどれだけ大胆にベットするか、かつ潮目が変わるときはどれだけ人より早く巻き戻すか、にかかってくることになる。