麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。嶋野と末席からケンジへの熱いレクチャー。前回に引き続き、自由経済と計画経済の間をとって“いい感じで市場をサポートする”ケインズ派について2人が絶妙な掛け合いで解説する。(佐々木一寿)

「自由市場のなすがままに任せるべきという古典派*1と、自由経済全否定のマルクス派*2、その両極端な2つの立場の、中間に位置する第3の存在として…」

*1 いわゆるレッセ・フェール(市場のなすに任せよ、というスタンス)が経済を活性化させるという立場。詳しくは前々回の内容を参照

*2 自由市場のなすがままに任せていると不況が発生するので、そうならないように計画して経済を回すべき、という立場。詳しくは前々回の内容を参照

 前回までの嶋野主任研究員たちの説明を、自分のアタマのなかで整理するように大学生のケンジは続ける。

「行政府などによる『お買い上げ』を上手に行い効果的に景気を良くしようというケインズ派が出てきた*3、ということはよくわかりましたが、それで結局、経済はよくなったんでしょうか」

*3 財政政策を適宜行うことで、自由市場の弱点を克服しようとする立場。詳しくは前々回の内容を参照

 前回の内容を150字程度でまとめきった甥のサマリー力(りょく)に満足しながらも、叔父である嶋野は試すように言ってみる。

「ケンジは、なにをもって『経済にとっていい』と思うんだい?」

「えーっと、やっぱり、景気が悪くならずに、順調に成長していって、その恩恵をみんなが受けられる、そんな感じですかね…」

 やっぱりケンジくんはいいやつだな、嶋野の同僚である末席研究員は感心しながらそれを承ける。

「なるほど。経済が順調に成長して、みんなが豊かになって、結果として幸せになる、そんなイメージなのですね。たしかに、程度の差はあれ、経済学者はその境地を目指して、その実現の方法を模索している、と言ってもいいと思います*4

*4 『大いなる探求』(シルヴィア・ナサー・著、新潮社・刊)の序文などを参照

 それを受けて、嶋野も補足する。

「その実現の方法に関しては、いろいろな立場の人がいて、議論がなされている。自由市場が一番いいという立場、計画経済のほうがいいという立場、そして、いい感じで市場をサポートするという立場から、もう100年以上、論争になっている状況なんだよ」