麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。嶋野と末席からケンジへの熱いレクチャー。いよいよ話は自由市場経済理論の限界へと入っていきます。(佐々木一寿)
大学生のケンジは、うっかり経済学部に入学することになったおかげで、引き続き、叔父が務める麹町経済研究所で経済学のレクチャーを受けている。
「自由な取引がみんなにとってためになる、というアイデアが、本質的には搾取的である重商主義経済よりもクールだ、ということで自由主義が出てきた、というのはわかったんですが……*1」
*1 前回の要約。絶対主義王政と結託した重商主義に疑問を感じた人たちが、自由な取引によるメリットを中心に据えた自由主義経済を標榜しはじめた。アダム・スミス、フランソワ・ケネーなど
ケンジは、この連載の長いブランクを埋めるように、アタマを整理しながら続ける。
「じゃあ、それでうまくいくのなら、もう経済学なんていらないじゃないですか。だって、みんなやりたいことやって、それを交換すれば、みんな今よりもハッピーになるっていうのなら、それ以上、難しいことを考えなくたって…」
ケンジくんも、さっき研究所に遊びに来たばかりだと思っていたら*2、とうとうここまで来たか…。末席研究員は感慨深げに口を開いた。
「そうですね、もし、それでうまくいくのであれば、もう経済学を意識する必要はないかもしれません、それでみなハッピーなのですから」
*2 じつはケンジくんは連載に登場して1年以上たつが、連載形式では、1話のなかで15秒しか話が進まない、といったことはよく起こる cf.『キャプテン翼』高橋陽一著
「しかし、そうは問屋が卸さなかったのじゃ!」
ケンジの叔父で当研究所の主任研究員、嶋野は、時代劇風にツッコミをいれるが、これも甥が退屈をしないための心遣いのようなのだが、肝心の甥へのウケはイマイチのようだ。
笑いにうるさい末席は、こういう場合は、厳しく対応する。
「そんな。三河屋か越後屋かしりませんが、悪徳商人が出てくる重商主義のパートは前回で終わっているんですが…*3、こんどはなんだっていうんですか」
*3 世界的にはフランスのジャン=バティスト・コルベール(1619-1683年)が有名