なぜ「会社を休めない」のか?
ある女性社員の不可思議なケース

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 実はブラックな職場を作る「心のダークサイド」というのは、実は一見ダークサイドには見えないことが多い。皆が持っている「ちょっとしたこと」が職場全体の雰囲気を変えてしまうことがあるのだ。

 今回はその「ちょっとしたこと」の例を紹介しよう。これはいくつかのインタビューで筆者が得た情報と、精神科医との共同研究で「新型うつ」や「ひきこもり」の患者さんらから得た情報を総合したものだ。

 きっかけは、ある女性社員から「会社を休めない」と相談を受けたことだった。当時、30代になったばかりの彼女は派遣職員として、ある会社の総務で働いていた。3ヵ月ほど経った頃から、仕事が忙しくなり、思うように休みが取れなくなったという。自分に仕事が集まるようになっても、誰も助けてくれず、自分一人が背負う形に。やがて残業は言わずもがな、土日出勤も頻繁にするようになり、有休などとれる状態ではなくなってしまった。

 筆者は最初、ブラックな職場なのかと思い、上司や同僚の言動も確認してみたが、特にそのような兆候はなかった。1人だけ、感情の起伏の激しい同僚がいて、時折彼女に厳しいことを言っていたが、それも常識の範囲だった。

 それに彼女以外の社員は、日本の会社としてはそれなりに休暇を取っていた。リーズナブルな理由があり、いない間の仕事の進捗について事前に段取りをしていれば、休暇をとることについては、上司も理解をしていた。むしろ彼女自身が「仕事を休めない」と思いこんでいるだけ、のようだった。