元米財務長官のローレンス・サマーズ氏が設立に関わった政策討論サイト「Big Think(ビッグシンク)」が、あのジョージ・ソロス氏とノーベル賞経済学者のロバート・マートン氏らを招いて、金融危機後の世界経済に関する緊急討論会を行った。その一部始終をシリーズでお届けする。第一回は、ソロス氏の発言に注目した。

モデレータ:ここまでのお話によって、しっかり確認しておきたい、あるポイントにたどり着きました。それはつまり、金融市場と「実体経済」との関係についてです。ジョージ(ソロス氏)、こう申し上げてよろしければですが、あなたはこれまで、金融市場において非常に素晴らしい成功を収めてきましたが、それでも常に、あなたの財団やそれ以外の仕事において、金融市場での成功と、普通の人々のつながりに関して大きな熱意を表明されてきました。あなたの見るところでは、今回の危機が展開していくなかで、国際的にも国内的にも、その解決策によって現実の(普通の)人々が救われるようにするには、何が必要なのでしょうか。

ソロス:まず、金融市場がどのように動いているのか、金融市場における価格と現実の世界のあいだにどのような関係があるのか、その点をもっとよく理解することから始めなければならないと思います。

 現在の私たちの理解は不適切であると思います。金融市場がどのようなものであり、どのように機能しているかという点について、現在主流となっているパラダイムは、実は間違っています。

 マートン教授と同じパネルディスカッションに参加できるのは非常に光栄に思うのですが、彼は、そのような勢力、そのようなパラダイムを体現する人物だと思っていますので、まさにこの議論に参加できるのは私にとって素晴らしい機会なのです。

 さて、現在のパラダイムでは、市場は何らかの形で現実の世界を反映しているとされています。何らかの種類の均衡価格がある、つまり市場は、あらゆる機会を、またその時点で適切であるすべての評価を正確に表現するような均衡状態に近づく傾向がある、という考え方です。

モデレータ:なるほど。

ソロス:そして、正確な対応からのズレはあるが、それらはランダムに発生するか、あるいは市場が調整しにくいような何らかの外部的なショックによって生じる、と。

モデレータ:しかし本質的には市場はそれ(現実の世界)を中立的に説明しているということですね。

ソロス:現実の世界を反映するものである、と。正確に反映しており、現実の世界との対応が存在する、ということです。しかしこのような考え方は間違っています。私は、何が起きたか、なぜそれが起きたかを実際に説明するような別のパラダイムを提唱しています。それは、現在主流になっているパラダイムと二つの点で異なっています。

 一つは、金融市場は常に、その根底にある現実を、偏った、歪んだ形で反映している、という点です。常に偏りや歪みが存在するのです。

 もう一つは、その偏りや歪みが、根底にある現実に影響を与えているという点です。つまり市場価格は受動的な反映ではなく、状況を形作る能動的な要素なのです。ですから、現実に影響を与え、現実を反映するという双方向の関係があるわけです。私はこれを再帰性と呼んでいます。そしてそれは、金融市場にとって本質的なものなのです。

*モデレータは、ブーズ&カンパニーのチーフマーケティング&ナレッジオフィサー、トーマス・スチュワート氏

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ジョージ・ソロス(George Soros)
ハンガリー・ブダペスト生まれのアメリカ人投資家。1970年、ジム・ロジャーズとともにソロスファンド(後のクォンタムファンド)を設立。10年間で3000%を超すリターンを叩き出す。その後、1992年に英国政府の為替介入に対抗しポンドへの大規模な空売りを実施、巨万の富を得たことで、投資家としての世界的な地位と名声を確立する。現在は、ソロス・ファンド・マネジメント及び私財をつぎ込んで設立したオープンソサイアティ財団(慈善事業団体)の会長。

Big Thinkは、ハーバード大学出身のピーター・ホプキンス氏が2008年1月に、ローレンス・サマーズ元米国財務長官らの協力を得て、立ち上げた“知識人”のための討論サイト。著名人の動画インタビューを中心に、政治から経済、科学、文化など幅広いテーマを取り扱っている。ダイヤモンド・オンラインでは今後、Big Thinkの動画コンテンツを定期的に掲載。第2回は、ソロス・サマーズ・マートンらの緊急討論会の様子を引き続きお伝えする。