
田中泰輔
米株式や商品などリスク資産市場は、インフレ高進と金利上昇加速で景気後退かという臆測に揺らいだ。相場が下げ止まると、最悪を織り込み済みという声もチラホラ。しかしインフレや金利の「変化」が鈍る公算の今年後半には、それらの「水準」が苦境の深さとその後の復調を探る要となろう。この正念場に、日本投資家にとって死活的に重要な円安の取り扱いについて、3段階の警鐘を鳴らしたい。

FOMCは6月15日に0.75%の大幅利上げを決定し、今後のタカ派的利上げ、経済成長のペースダウンの見通しを示した。FRBの想定が経済実態に近づいたことは、市場心理がいたずらに悲観と楽観に振れる余地を狭める効果がある一方、景気後退と資産価格下振れのリスクをより強く意識させる。新たに踏まえるべき投資景観と、取るべきスタンスを考える。

米金利上昇に沿って動く循環的な円安(ドル高)について、日本衰退の象徴であるかの筋違いの論調がはびこっている。不安に駆られた投資家からは、円資産に見切りをつけ、海外投資に乗り出すべきかという声があがる。専門家からは、日本の貿易赤字、個人資産2000兆円の海外逃避で円安が止まらなくなるかのごとくの指摘がされる。しかし、1年半まで円高におびえ、今は円安不安にさいなまれるようでは、循環的円安をしたたかに生かす投資強者には程遠い。

円安が止まらない。この円安は米金利上昇を主因とするもので、日本側で動かせる余地は限られる。いずれ米金利がピークに達し、米景気・インフレに鈍化観測が出ると、先行的に米株が下落し、ドル円の反落を伴うだろう。

ドル高円安が120円台で進行している。かつて円高恐怖症にさいなまれた日本では、最近は円安も不安視される。そして「実質実効レートで50年来の円安」が日本の衰退の象徴であるかの論調が呼応し合っている。しかし、構造的円安と足元の米金利上昇に沿う循環的円安と混同するようだと、ビジネスや投資の判断を誤りかねない。

米株式相場の流れは、金融引き締め開始を嫌う中間反落の途上にある。そこに、ウクライナ地政学リスクの波紋も重なる。ただし、1月のように売り逃げを模索する段階は過ぎた。3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)へ向けて、短期投資、時間分散投資を経て、その後の業績相場への本格出動にもそろり目線を進める段階かと構えている。中間反落の状況を中間レビューする。

ウクライナ問題の情報は、政治的駆け引きが重なり、有事の有無という不確実性の前で、市場はヤキモキし揺れ動くばかりだった。しかし、遂にロシア軍が攻撃を開始したと報じられる。有事ショックを捉える三つのポイントを踏まえ、株、金利、為替、商品はどう動くか、緊張緩和ならどう戻るか、有事が持続する場合にどう評価するかの視点を示す。

2022年の米株式は、コロナ禍の大金融相場がFRBの金融引き締めとともに終息し、中間反落場面を迎えている。ほどほどのインフレと金利上昇にめどが立てば、23年にかけて業績相場での上昇を見込める。金利高と株高とドル高が並走する場面で、日本からの米株式投資は株と為替でのWの利益を期待できよう。しかし24年に米政策金利が2.5%に達すると、業績相場が終息し、株安・ドル安のWの悲劇が起こり得る。その時、日本の投資家はどのような対応を取るべきか。

2022年は、インフレと金融政策の行方に不確実性が大きく、北京オリンピック後から秋の中国共産党大会、米中間選挙へと国際政治の波乱要因が少なくない。株式、債券、為替、商品の各市場は経済と政治の双方でいくつものシナリオが想定され、多くのリスクを警戒すべき場面になろう。投資家には、確からしいシナリオに沿って攻守いずれかに徹する時期もあれば、不透明な状況に確率論的に選択メニューを用意して臨む時期もある。22年は後者が基本と考える。

オミクロン株ショックで下落する米株式相場に、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長のインフレファイターに傾く発言が追い打ちをかけた。コロナ禍下の超ド級の株式金融相場は、初の試練に直面し、当面の明暗を分ける境界域に押し込まれている。この分岐リスクの実態を明らかにし、投資家にとって、その先の光明がどう現れるかを考える。

FRBは、テーパリングを完了する2022年半ば以降、利上げステップに入る公算だ。ドル円相場は米金利上昇に伴って115~120円ゾーンに移行するとみる。さらに、世界的にリスクオンが続くと、ドル指数が下落するが、そのドルに対して円が独歩安で進む展開もあり得る。コロナ禍克服過程の攪乱を踏まえて、このドル円見通しのリスクも考える。

米株式相場は昨年9~10月、今年2~3月に続く、半年に1度起きる程度の調整に見舞われた。過去の事例から全治2カ月とざっくり初期診断しつつ、まずは「売りが売りを呼ぶ」事態悪化のリスクに細心の注意を持って観察している。景気減速、インフレ、金利上昇、中国問題、資源高騰、ワクチンなどファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)の外的要因以上に、実は、不安定な損益状況にある既存投資ポジションからの行動、つまり、相場自体の内的力学を重要視すべき場面である。

世界で一人負けだった日本株が、菅首相の退陣表明を契機に急反発した。この展開を、菅首相の属人的問題、日本のファンダメンタルズの表れとみてしまっては、相場を捉えるポイントを外すことになろう。相場動意のメカニズムを踏まえて、日本株の上昇が2022年へ向けて続く条件を考える、最も重要な条件は日本自体より、グローバルなマクロ経済環境にある。

主要国通貨が変動相場制に移る契機となったニクソン・ショックから50年、そこから四半世紀、日本は経済大国として台頭し、次の四半世紀には一転、停滞し、閉塞状況に陥った。円相場もまた、日本の盛衰を映す変遷をたどっている。日本の投資家として、この変化を冷静に踏まえて、どう攻め、自らをどう守るかを、円相場の視座から考える。

コロナ禍対応の超金融緩和を背景にする米株式の大相場は、向こう3~6カ月でいよいよ収束ステージへ向かうとみる。相場のトレンドの傾斜は低くなり、経済・インフレ指標、政策動向、長期金利、株価、為替、商品など諸要因の錯綜(さくそう)による波動が増えると想定する。短期投資の妥当性が高まる場面であり、中長期投資も既存ポジションを単純に保持するだけで良いか見直しておくべきと考える。

新型コロナ克服へ向かう中、経済指標は過渡的に無意味に振れ、株式などリスク資産市場は金融相場の変化に対して神経質に右往左往している。相場が方向感を失うと、メディアや情報リーダーたちの言葉は先鋭化し、単純明快な「相場テーマ」に流れ、相場において自己実現の展開もそこかしこに生じやすい。ワクチン相場、リフレ相場の裏を読み解き、投資家の臨み方を考える。

米国株式は、コロナ禍の2020年に期待主導で無邪気に上がる金融相場の前半戦を享受した。21年の後半戦では、正常化する経済と脱危機対応に向かう政策の下、株式・金利・為替・商品など各市場の浮沈であつれきが生じやすいと想定した。コロナ克服による経済正常化というマクロは「天気晴朗」、なれど相場は「波高し」。この状況下で投資家が定めるべき視座を提供する。

皆が望んだ、コロナ克服による経済正常化は、そのプロセスで、株式などさまざまな相場に波乱をもたらすだろう。今は超ド級の金融緩和を背景にした超ド級の金融相場がクライマックス局面へ向かう「高値波乱含みながらまだ上げ潮」という状況にある。その相場内部で何が起こるか、投資家はどのような情報環境に置かれるのか、陥りがちな身近なワナとは何か。

株式や為替の急落には必ず原因として犯人が挙げられる。しかし、多くは誤認逮捕、市場には間違った犯人を仕立ててしまう性質がある。誤った犯人像に目を奪われ、真犯人を見失えば、投資家として無用なリスクを被ったり、好機を逃したり。最近株価急落犯とされた米長期金利の上昇も、現時点で相場を壊す凶悪犯ではない。

14年担当した本欄も最終回。何度も登場させた米経済・市場サイクル図で2021年の展望を総括しよう。筆者にとっては三十余年も相場の大波乱を乗りこなした「透視眼鏡」だ。
