FOMCは6月15日に0.75%の大幅利上げを決定し、今後のタカ派的利上げ、経済成長のペースダウンの見通しを示した。FRBの想定が経済実態に近づいたことは、市場心理がいたずらに悲観と楽観に振れる余地を狭める効果がある一方、景気後退と資産価格下振れのリスクをより強く意識させる。新たに踏まえるべき投資景観と、取るべきスタンスを考える。(田中泰輔リサーチ代表 楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー 田中泰輔)
0.75%利上げに踏み切った
FOMCの豹変
6月15日、FOMC(米連邦公開市場委員会)は0.75%の利上げを決めた。ほんの数日前まで、0.5%利上げが市場のコンセンサス予想だった。当局のこの豹変(ひょうへん)と整合的に、今後の経済・金利見通しも切り替えた。
これによって、米国のみならず世界の経済と市場の景観はがらりと変容している。そこには明暗両面がある。投資家は新たな政策のスタンス、今後の流れに適応すべく試行錯誤にもがくことになろう。
FOMC豹変の顛末(てんまつ)を振り返る。5月FOMC議事録で6月、7月会合でのそれぞれ0.5%の利上げが示唆され、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長も発言でこの点を追認していた。
5月実行の0.5%利上げの後、さらに2回0.5%を続ける金融引き締めは、この時点では相当にタカ派的と解釈された。そして、4~6月期からのインフレ鈍化の想定と相まって、9、11、12月のFOMCではそれぞれ0.25%利上げとなり、タカ派度が緩むという安堵(あんど)感を呼んだ。
米株式市場に目を転じると、2022年初から、米利上げ開始を嫌い反落し、ウクライナ有事が追い打ちをかけた。5月中旬に下げ足を速めると、後講釈する悲観論が横行。今にも景気後退かという論調が強まり、リスクオフ感で米長期金利も3%割れへと軟化した。
これを救う一因になったのがFRBの楽観的展望だった。金融政策は当面タカ派的でも、インフレ鈍化を促し、3カ月後には利上げペースを鈍化させる柔軟性ありとの見立てから、長期金利が低下し、株式相場の復調を誘った。すると、5月に最悪リスクを織り込んだ景気はもう大丈夫というゲンキンな後講釈がなされた。
しかし、リスクオフ感が弱まると、金利は自ずと上がりやすくなる。長期金利が再び3%超に上昇すると、株式相場は復調期待と滑落トラウマの間で神経質になった。
ここに6月公表のCPI(消費者物価指数)の予想を上回る上昇、ECB(欧州中央銀行)の7月利上げ予告というタカ派表明が追い打ちをかけた。長期金利の急上昇で、株価は急反落し、再び年初来安値を更新する事態になったのは、FOMC前の6月13日月曜日だった。
この時点では、株価と景気を配慮する0.5%利上げか、インフレ鈍化観測を見直しての0.75%利上げか、見方は混在した。しかし、翌火曜日に株価がFOMCの結果待ちで下げ止まると、市場では0.75%利上げ予想が主流になった。
FRBは、インフレ急伸に対して後手に回っており、利上げの加速を図っている。経済と市場へショックがないよう配慮を見せつつも、市場が織り込む最大限の金融引き締めを実現する構えを続けている。6月15日水曜日のFOMCでは、市場がせっかく織り込んだ0.75%利上げを、そのまま実現させる決定を下した。
この0.75%利上げで23年に投資家取るべきスタンスは大きく変わった。その変容ぶりを次ページから解説する。