米金利上昇に沿って動く循環的な円安(ドル高)について、日本衰退の象徴であるかの筋違いの論調がはびこっている。不安に駆られた投資家からは、円資産に見切りをつけ、海外投資に乗り出すべきかという声があがる。専門家からは、日本の貿易赤字、個人資産2000兆円の海外逃避で円安が止まらなくなるかのごとくの指摘がされる。しかし、1年半まで円高におびえ、今は円安不安にさいなまれるようでは、循環的円安をしたたかに生かす投資強者には程遠い。(田中泰輔リサーチ代表・楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー 田中泰輔)
「円安怖い」の末路
円相場50年を再考する
最近の超円安の大半は米金利上昇に伴うものだ。ドル買いの相手となる売り通貨として、単に金利が低いままで流動性のある良質な円が、世界の投機筋に好まれている。いずれ米金利上昇が反転する時には、円高への揺り返しが起こる循環現象だ。
ところが、日本国内では、この円安を日本衰退の象徴とするかの論調が多い。ほんの1年半前まで、米金融緩和を背景に、対ドル100円突破の円高を恐れおののいていたのが、今は円安不安症である。
筆者は当欄で2回にわたり、円安をまずは循環現象としてみるべきと論じてきた。投資目線で評価すれば、相場の動きに恐怖や不安を抱きすぎる投資弱者が、良い目を見る可能性は小さいだろう。
閉口するのは、加速的円安、50年来の実質円安を受けて、「外国人は日本資産に見切りをつけている」「日本人も海外資産に乗り換えるべき」「2000兆円の個人資産がいよいよ海外逃避して円安が止まらないかも」などと言う「専門家」である。
円安が循環的に突飛であることは、ドルが循環的にかなり高値圏に来ていることに他ならない。筆者が知る外国人は、日本で働き、給与を円で受け取っているが、それを今この円安水準で自国通貨に変えることをためらい、途方に暮れている。そんな水準で、これから外貨資産投資へ乗り出すことの意味をよく考えてほしい。
確かにここまでの円安過程では、米株式など海外資産投資で相当な為替差益を享受しているだろう。しかし、それが延々と続くわけではなく、循環的に揺り返しも来るとみるべきだろう。中期的には、海外資産を円に戻すメリット(為替差益確定、円高リスク回避)を考えるのが妥当な発想と考える。
ここからのドルなど海外資産投資は、米金利上昇に沿う円安局面の短中期に限り、本格的に乗り出すなら、米金利ピークアウトに伴う海外株安と円高を確認してからというのが循環論からの推奨だ。
日本が30年間も経済成長を鈍らせ、世界で相対的地位を低下させていることは事実である。それによる実質円安は既に15年以上前からの論点であり、日本の経済構造が積極的に変わらなかったことには忸怩(じくじ)たる思いがある。しかし、現状の循環的円安を「50年来の円安=日本衰退」と論じるのはあまりに誇張的である。
見誤っている原因となっている3つのポイントを次ページから解説していく。